うつ病の労災認定基準は?労基署に「仕事が原因」と認めてもらう方法
- どうしたら、「仕事が原因」でうつ病などの精神障害を発病したと認められるの?
- 心理的負荷(ストレス)が「強」とされる労災認定基準は?
- 労基署に「仕事が原因」と認めてもらうための具体的な方法が知りたい!
こんな悩みを解決できる記事を書きました。
精神疾患に関する労災申請や、会社に対する損害賠償請求を積極的に取り扱っています。
この記事で解説する「うつ病の労災認定基準は?労基署に「仕事が原因」と認めてもらう方法」を読めば、労基署はどういう場合に「仕事が原因」で精神障害を発病したと判断しているのかがわかります!
かなり複雑で難しい話となりますが、うつ病などの精神障害が労災と認められるために一番重要なポイントですので、徹底的に解説しています!
まずは、「結論として、労基署に「仕事が原因」と認めてもらうためには?」という疑問に回答しているので、ぜひ読んでみてくださいね。
心理的負荷(ストレス)が「強」であること!
心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」なら、仕事が原因と判断されます!
初めに、うつ病などの精神障害で労災が認められるためには、「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」という基準(要件)を満たす必要があります。
うつ病などの「精神障害で労災が認められるための要件(条件)」について、あまりよく知らない方にむけて、以下の記事で詳しく説明しています。
「精神障害で労災が認められるためには、何が必要なの?」「労災が認定がされるための条件を知りたい!」という方は、ぜひチェックしてみてください!
そして、結論として、「業務による強い心理的負荷」が認められるためには、厚生労働省が公表する「業務による心理的負荷評価表」に定められた「具体的出来事」における心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」となることが必要です。
上の説明を見ても、とても難しい内容ですね。
でも、うつ病などの精神障害が労災と認められるために一番重要なポイントです。
とても難しくて複雑ですが、重要なポイントなので、できるだけわかりやすく解説していきますね!
ストレスの強さは客観的に判断されます
仕事におけるストレスには、さまざまなものがあります。
ある人が、ストレスをがどのように受け止めるかは、その人がどう感じるかという主観的な問題です。主観的な問題である以上、人によって違うものとなります。
しかし、労災認定の判断にあたっては、人によって違うものではなく、客観的な評価がされなければなりません。
労災の認定基準に関する通達でも、次のように定められています。
精神障害を発病した労働者が、その出来事及び出来事後の状況を主観的にどう受け止めたかによって評価するのではなく、同じ事態に遭遇した場合、同種の労働者が一般的にその出来事及び出来事後の状況をどう受け止めるかという観点から評価する。
「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日基発0901第2号)
「精神障害と仕事との関係」については以下の記事で詳しく説明していますので、「どうやって心理的負荷(ストレス)を評価する基準ができたか知りたい!」という方は、ぜひチェックしてみてください!
ストレスの強さは「強」「中」「弱」の3つ!
このようにして、仕事によるストレスの大きさは、客観的に評価されることになります。
そこで、労災認定の基準では、仕事によるストレスの大きさを判断するために、仕事によって起こる「出来事」をあらかじめ想定して、その「出来事」ごとに生じるストレスの大きさを事前に類型化しています。
具体的には、仕事によるストレスの大きさ(業務による心理的負荷の強度)の判断は、厚生労働省があらかじめ定めた「業務による心理的負荷評価表」に基づき判断されます。
最新版の「業務による心理的負荷表」は、こちらからダウンロードできます。
具体的な「出来事」としては、例として次のような「出来事」が示されています。
仕事におけるストレスの原因となる「出来事」の例
- 1か月に80時間以上の時間外労働を行った
- 退職を強要された
- 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた
など
「出来事」による心理的負荷(ストレス)の大きさは、「強」、「中」、「弱」の三段階に分けてられています。
そして、業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められるものは、心理的負荷の総合評価が「強」とされています。
他方、業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められないものは、「中」や「弱」と記載されています。
「弱」は、日常的に経験するものや一般に想定されるものなどで、普通は弱いストレスにしかならないものです。
また、「中」は経験の頻度は様々であり「弱」よりはストレスがあるものの、強い心理的負荷(ストレス)とは認められないものとされています。
このように、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」とされた場合にだけ、精神障害で労災が認められるための2つ目の要件である「業務による強い心理的負荷」が認められることになります。
そのため、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」と判断されなければ、労災とは認められないのです。
【レアケース】「特別な出来事」が認められる場合
「特別な出来事」とは
厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」に示された「特別な出来事」があった場合、それだけで心理的負荷の総合評価が「強」であると判断されます。
「特別な出来事」とは、具体的に次のものを指します。
特別な出来事の類型 | 心理的負荷の総合評価を「強」とするもの |
心理的負荷が極度のもの | ・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした(業務上の傷病による療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む) ・ 業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く) ・ 強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた ・ その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの |
極度の長時間労働 | 発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の (例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った |
「心理的負荷が極度のもの」とは
「心理的負荷が極度のもの」は、出来事それ自体の心理的負荷(ストレス)が極めて大きいため、出来事後の状況に関係なく強い心理的負荷(ストレス)を与えるものとされています。
この中の、「永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガ」とは、障害等級第3級以上の非常に重たい後遺障害を残すような場合が考えられます。
「本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為」とは、被害者が抵抗したにもかかわらず強制的になされたわいせつ行為や、被害者が抵抗しなかった場合であっても、行為者が優位的立場を利用するなどして物理的・精神的な手段によって被害者の意思を抑圧して行われたわいせつ行為を意味します。
そのため、被害者の意思が抑圧された場合、着衣の上から行われたものであってもこれに該当する場合があります。
「極度の長時間労働」とは
「極度の長時間労働」とは、数週間にわたり生理的に必要な最小限度の睡眠時間(5時間程度)を確保できないほどの長時間労働のことを指します。
このような場合、心身に対する極度の疲弊や消耗が生じることから、精神障害の原因となるとされています。
ここでいう、「時間外労働」とは、1週40時間を超える労働時間をいいます。
そして、「極度の長時間労働」とは次のものを指します。
- 発病直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合
- 発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合
そのため、割増賃金(残業代)の計算に用いる「(法定外)時間外労働」と似ていますが、違うものを指しています。
それぞれ違うものであることから、労災の認定のために判断される「時間外労働」と、割増賃金(残業代)の算定に用いられる「(法定外)時間外労働」とは、通常は一致しないことに注意が必要です。
なお、「休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合」など、労働密度が特に低い場合(寮に住み込みで管理業務を行う場合など)は、これには該当しません。
【通常のケース】「特別な出来事」がない場合
「特別な出来事」があれば、それだけで業務による心理的負荷(ストレス)が「強」であると判断されます。
もっとも、「特別な出来事」は既に説明したように例外的なケースであり、「特別な出来事」があるような事案は多くありません。
そこで、「特別な出来事」がないケースについては、別の方法で心理的負荷(ストレス)が「強」であるかどうか判断されます。
「具体的出来事」の確認
まず初めに、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」に示された「具体的出来事」にあてはまるものがあるかを判断します。
直接当てはまるものがない場合は、それに近い「具体的出来事」に当てはめて、総合評価を行うこととされています。
それぞれの「具体的出来事」(全部で29種類)には、「平均的な心理的負荷の強度」として、強い方から「Ⅲ」、「Ⅱ」、「Ⅰ」が示されています。
例えば、「業務による心理的負荷表」の「具体的出来事」項目22では、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」と書かれています。
出来事の類型 | 具体的出来事 | 心理的負荷の総合評価の視点 | 弱 | 中 | 強 |
⑤パワーハラスメント | 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた | ・指導・叱責等の言動に至る経緯や状況等 ・身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度、上司(経営者を含む)等との職務上の関係等 ・反復・継続など執拗性の状況 ・就業環境を害する程度 ・会社の対応の有無及び内容、改善の状況等 (注)当該出来事の評価対象とならない対人関係のトラブルは、出来事の類型「対人関係」の各出来事で評価する。 (注)「上司等」には、職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合も含む。 | 【「弱」になる例】 ・上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた | 【「中」になる例】 ・上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃等が行われ、行為が反復・継続していない ▸治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃 ▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃 ▸必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃 ▸無視等の人間関係からの切り離し ▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求 ▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求 ▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害 | ・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた ・上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた ・上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた ▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必 要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃 ▸必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃 ▸無視等の人間関係からの切り離し ▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求 ▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求 ▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害 ・心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった ※性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含む。 | 【「強」である例】
そして、「平均的な心理的負荷の強度」の欄には、「Ⅲ」に「☆」マークがされています。
そのため、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」場合の心理的負荷(ストレス)は、一般的に強いものであると考えられることになります。
心理的負荷(ストレス)の総合評価の視点
その上で、「心理的負荷の総合評価の視点」として、その出来事に伴う業務による心理的負荷(ストレス)の強さを総合的に評価するために典型的に想定される検討事項が示されています。
さらに、「心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」が示されています。
先ほどのように、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」場合を例として見てみましょう。
出来事の類型 | 具体的出来事 | 心理的負荷の総合評価の視点 | 弱 | 中 | 強 |
⑤パワーハラスメント | 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた | ・指導・叱責等の言動に至る経緯や状況等 ・身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度、上司(経営者を含む)等との職務上の関係等 ・反復・継続など執拗性の状況 ・就業環境を害する程度 ・会社の対応の有無及び内容、改善の状況等 (注)当該出来事の評価対象とならない対人関係のトラブルは、出来事の類型「対人関係」の各出来事で評価する。 (注)「上司等」には、職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合も含む。 | 【「弱」になる例】 ・上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた | 【「中」になる例】 ・上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃等が行われ、行為が反復・継続していない ▸治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃 ▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃 ▸必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃 ▸無視等の人間関係からの切り離し ▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求 ▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求 ▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害 | ・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた ・上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた ・上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた ▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必 要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃 ▸必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃 ▸無視等の人間関係からの切り離し ▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求 ▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求 ▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害 ・心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった ※性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含む。 | 【「強」である例】
「心理的負荷の総合評価の視点」では、次のような事項を検討するとされています。
- 経緯や状況等・身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度、上司(経営者を含む)等との職務上の関係等
- 反復・継続など執拗性の状況
- 就業環境を害する程度
- 会社の対応の有無及び内容、改善の状況等
このように、「心理的負荷の総合評価の視点」が定められているのは、心理的負荷(ストレス)が「強」であるかどうかよくわからない場合に、判断するための材料を示す必要があるからです。
心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例
厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」には、「具体的出来事」ごとに「心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」が示されています。
これまでと同じく、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」場合を例として見てみましょう。
出来事の類型 | 具体的出来事 | 心理的負荷の総合評価の視点 | 弱 | 中 | 強 |
⑤パワーハラスメント | 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた | ・指導・叱責等の言動に至る経緯や状況等 ・身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度、上司(経営者を含む)等との職務上の関係等 ・反復・継続など執拗性の状況 ・就業環境を害する程度 ・会社の対応の有無及び内容、改善の状況等 (注)当該出来事の評価対象とならない対人関係のトラブルは、出来事の類型「対人関係」の各出来事で評価する。 (注)「上司等」には、職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合も含む。 | 【「弱」になる例】 ・上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた | 【「中」になる例】 ・上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃等が行われ、行為が反復・継続していない ▸治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃 ▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃 ▸必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃 ▸無視等の人間関係からの切り離し ▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求 ▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求 ▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害 | ・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた ・上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた ・上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた ▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必 要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃 ▸必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃 ▸無視等の人間関係からの切り離し ▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求 ▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求 ▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害 ・心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった ※性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含む。 | 【「強」である例】
「心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」の中の【「強」である例】では、次のように記載されています。
【「強」である例】を一部抜粋
- 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた
- 上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた
- 上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた
(中略) - 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった
そして、具体例に書かれたものと、実際にあった出来事(あなたの体験した出来事)とが同じものである場合は、その具体例に書かれた心理的負荷(ストレス)の強度で評価されることになります。
例えば、会社の上司から、腕を3回殴られて、骨折をしたとします。
これは、「心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」の【「強」である例】のうち、「上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた」というものと同じ出来事です。
「強」に該当する具体例
そのため、この場合、具体例に書かれた心理的負荷(ストレス)は「強」であることから、心理的負荷(ストレス)が「強」であると判断され、労災の認定がされることになります。
「中」に該当する具体例
次に、例えば、上司から1度だけ腕を殴られたとします。そのときは痛かったですが腫れてもいないため治療は必要なかったとしましょう。
この場合、「心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」の【「中」になる例】のうち、「上司等による次のような身体的撃・精神的攻撃等が行われ、行為が反復・継続していない ▸治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃」というものと同じ出来事です。
そのため、この場合、具体例に書かれた心理的負荷(ストレス)は「中」であることから、心理的負荷(ストレス)が「中」であると判断されることになります。
つまり、これだけでは労災の認定がされないことになります。
ストレスの強度まとめ
このように、順番として、まずはあなたが体験した出来事が、「心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」と同じ出来事であったかどうかを確認します。
同じ出来事であれば、そこに書かれた心理的負荷(ストレス)の強度が認められることになります。
次に、あなたが体験した出来事が「心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」と同じ出来事でない場合(同じ出来事かわからない場合)には、「心理的負荷の総合評価の視点」などに基づき、具体例も参考としながら、個々の事案ごとに心理的負荷(ストレス)の強度を評価することになります。
ただし、具体例はあくまでも例なので、具体例の「強」の欄で書かれているもの以外は「強」とならないわけではありません。
労災の認定基準に関する通達でも、次のように定められています。
なお、具体例はあくまでも例示であるので、具体例の「強」の欄で示したもの以外は「強」と判断しないというものではない。
「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日基発0901第2号)
総合評価に共通する考え方
あなたの体験した「具体的出来事」(例:長時間労働、パワハラなど)が、「心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」とそのまま同じ場合には、判断に迷うことはありません。
しかし実際は、「心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例」とそのまま同じではないケースも多くあります。
そのようなケースでは、心理的負荷(ストレス)の強さが、「弱」「中」「強」のどれになるのか、難しい判断となります。
そこで、労災の認定基準に関する通達において、次のように考え方が定められています。
(ア) 類型①「事故や災害の体験」は、出来事自体の心理的負荷の強弱を特に重視した評価としている。
「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日基発0901第2号 )
(イ) 類型①以外の出来事については、出来事と出来事後の状況の両者を軽重の別なく評価しており、総合評価を「強」と判断するのは次のような場合である。
a 出来事自体の心理的負荷が強く、その後に当該出来事に関する本人の対応を伴っている場合
b 出来事自体の心理的負荷としては中程度であっても、その後に当該出来事に関する本人の特に困難な対応を伴っている場合
このように、心理的負荷(ストレス)の総合評価をする場合、「出来事」の後に本人がどのような対応を行ったのかといった視点も踏まえて、労災が認定されるかどうかの判断がされます。
また、心理的負荷(ストレス)の総合評価をする場合、次のような点に気を付ける必要があります。
出来事の総合評価に当たっては、出来事それ自体と、当該出来事の継続性や事後対応の状況、職場環境の変化などの出来事後の状況の双方を十分に検討し、例示されているもの以外であっても出来事に伴って発生したと認められる状況や、当該出来事が生じるに至った経緯等も含めて総合的に考慮して、当該出来事の心理的負荷の程度を判断する。
「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日基発0901第2号)
その際、職場の支援・協力が欠如した状況であること(問題への対処、業務の見直し、応援体制の確立、責任の分散その他の支援・協力がなされていない等)や、仕事の裁量性が欠如した状況であること(仕事が孤独で単調となった、自分で仕事の順番・やり方を決めることができなくなった、自分の技能や知識を仕事で使うことが要求されなくなった等)は、総合評価を強める要素となる。
そのため、総合評価をすることによって心理的負荷(ストレス)の強さを判断しなければならない場合には、①出来事それ自体だけでなく出来事後の状況、②職場の支援・協力の有無、③仕事の裁量の有無についても検討することで、心理的負荷(ストレス)が「強」であるかどうかを判断することになります。
日常的に長時間労働がある場合
精神障害が労災となるかどうかを判断する際の「時間外労働」とは、1週40時間を超える労働時間のことをいいます。
長時間労働は、精神障害をひきおこす準備段階の原因となっているとの考えがあります。
そこで、日常的に長時間労働がある場合に発生した出来事の心理的負荷(ストレス)は、普通の場合よりも強いものとして評価される必要があると考えられます。
そのため、1か月おおむね 100 時間の時間外労働を「恒常的長時間労働」(こうじょうてきちょうじかんろうどう)の状況として、次の①~③の場合には、心理的負荷(ストレス)を「強」と判断することとされています。
① 具体的出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに「中」程度と評価され、かつ、出来事の後に恒常的長時間労働が認められる場合
② 具体的出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに「中」程度と評価され、かつ、出来事の前に恒常的長時間労働が認められ、出来事後すぐに(出来事後おおむね 10 日以内に)発病に至っている場合、又は、出来事後すぐに発病には至っていないが事後対応に多大な労力を費しその後発病した場合
③ 具体的出来事の心理的負荷の強度の評価が、労働時間を加味せずに「弱」程度と評価され、かつ、出来事の前及び後にそれぞれ恒常的長時間労働が認められる場合
「精神障害の労災認定」8ページ
文字で書かれていると難しくてわかりづらいですが、長時間労働があった場合に労災の認定される重要なポイントの一つなので、図で整理して解説します!
①~③のケースに該当すれば、心理的負荷(ストレス)が「強」であると判断されるため、労災であると認められることになります。
①のケースは、「先」に、心理的負荷(ストレス)が「中」となる出来事があって、その「後」、1か月おおむね 100 時間の時間外労働(恒常的長時間労働)をしたケースです。
②のケースは、パターンが2つに分かれます。
②のケースのパターン1は、「先」に、1か月おおむね 100 時間の時間外労働(恒常的長時間労働)があり、その「後」に心理的負荷(ストレス)が「中」となる出来事があって、その後「おおむね10日以内」に、精神障害を発病したケースです。
②のケースのパターン2は、「先」に、1か月おおむね 100 時間の時間外労働(恒常的長時間労働)があり、その「後」に心理的負荷(ストレス)が「中」となる出来事がある場合です。ここまでは、パターン1と同じです。
その後に、時間的にすぐに発病したわけではないものの、事後対応に多大な労力をかけたことによって、その後に精神障害を発病したケースです。
③のケースは、「先」に、1か月おおむね 100 時間の時間外労働(恒常的長時間労働)があり、その「後」に心理的負荷(ストレス)が「弱」となる出来事があって、その「後」にまた、1か月おおむね 100 時間の時間外労働(恒常的長時間労働)がある場合です。
具体的出来事に対する心理的負荷(ストレス)が「弱」であっても、その前後が、1か月おおむね 100 時間の時間外労働(恒常的長時間労働)で挟まれているため、長時間労働の影響によって精神障害が発病したものと考えられます。
ハラスメントやいじめがある場合
ハラスメントやいじめのように、「出来事」が繰り返されるものがあります。
このような繰り返される「出来事」について一つ一つ分解して評価すると、心理的負荷(ストレス)の強度の評価として適切なものとなりません。
そこで、繰り返される「出来事」を一体のものとして評価して、それが継続する状況は、心理的負荷(ストレス)が強まるものと評価するものとされています。
また、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の「具体的出来事」の中には、「反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた」と記載されているものがあります。
例えば、パワハラの場合は次のように記載されています。
上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた
「精神障害の労災認定」8ページ
「執拗」(しつよう)とされる事案は、通常、行動が何度も繰り返されている状況にある場合が多いです。
しかし、たとえ一度の言動であっても、比較的長時間に及ぶものであって、行為も強烈で、悪質な場合もあります。
そのような場合、回数だけに注目してしまうとストレスを適切に評価することができません。
そこで、「反復・継続するなど」として、一度の言動であっても、「執拗」(しつよう)と判断されることがあるとされています。
複数の「出来事」がある場合
あなたが体験したストレスを生じさせる「具体的出来事」が一つだけであれば、これまでの考え方によって心理的負荷(ストレス)が「強」であるかどうかを判断することができます。
しかし、実際には「具体的出来事」が一つだけという事案だけでなく、「具体的出来事」が複数認められる事案もたくさんあります。
このように、複数の「具体的出来事」がある場合の評価は、次のようにすることになります。
どれか一つでも「強」とされる場合
あなたが体験した複数の「出来事」があった場合、まず、それぞれの具体的出来事について、総合評価を行い、どれか一つでも具体的出来事によって「強」の評価ができる場合は、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」であると判断されます。
これは簡単ですね。難しくなるのは、次からです。
複数の「出来事」が関連してる場合
あなたが体験したどの「出来事」でも、それ単独では「強」と評価できない場合があります。
むしろ、単独では「強」と評価できないケースの方が多いくらいです。
この場合、あなたが体験した複数の「出来事」について、関連して発生しているケースと、関連せずに発生しているケースの2つに分けて考えることになります。
「出来事」が関連して発生しているケースでは、その全体を一つの出来事として評価することとされています。
そして、そのやり方は、まず「最初の出来事」を、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の「具体的出来事」として当てはめます。
そのため、「最初の出来事」について、まずは単独で「中」か「弱」であるかを判別します。なお、「強」である場合は、総合評価も「強」となるため、それ以上検討する必要はありません。
次に、関連して生じた「出来事」は、「最初の出来事」の後に発生した状況と考えることによって、全体について総合的な評価を行うこととされています。
つまり、関連して生じた「出来事」については、「出来事」そのものとして単独で評価するのではなく、「最初の出来事」の後に発生した状況として考えるため、最初の出来事から生じた心理的負荷(ストレス)をどれだけ強めたか、という観点から判断されることになります。
労災の認定基準に関する通達でも、次のように定められています。
具体的には、「中」である出来事があり、それに関連する別の出来事(それ単独では「中」の評価)が生じた場合には、後発の出来事は先発の出来事の出来事後の状況とみなし、当該後発の出来事の内容、程度により「強」又は「中」として全体を総合的に評価する。
「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日基発0901第2号)
なお、「出来事」が関連したものであるかどうかについては、同じ時点で発生したことがらを別の視点から検討している場合、同じ原因によって複数のことがらが生じている場合、初めの「出来事」の結果として次の「出来事」が発生した場合などは、複数の「出来事」が関連して発生した場合と判断されます。
複数の「出来事」が関連していない場合
ある「出来事」に関連せずに他の「出来事」が発生した場合、これまでの考え方によって心理的負荷(ストレス)の強度を判断することはできません。
単独の出来事の評価が「中」と評価される出来事が複数ある場合は、出来事が生じた時期の近接の程度、各出来事と発病との時間的な近接の程度、各出来事の継続期間、各出来事の内容、出来事の数等を総合的に検討することになります。
そして、これらの事情を総合的に判断して、心理的負荷(ストレス)の強度についての全体を評価します。
この場合、全体の総合的な評価は、「強」か「中」のどちらかになります。
特に、それぞれの「出来事」が時間的に近く、重なって発生している場合には、全体の総合的な評価は、それぞれの出来事の評価よりも強くなると考えられています。
他方、それぞれの「出来事」が終わって落ち着いた状況となった後、さらに次の出来事が発生した場合は、出来事と出来事の間が離れていることから、それぞれの出来事を単独で評価したものと同じものになると考えられています。
なお、「中」である出来事が一つあるほかには「弱」の出来事しかない場合、原則として全体の総合的な評価も「中」になります。
さらに、「弱」の出来事が複数生じている場合には、原則として全体の総合的な評価も「弱」となります。
複数の「出来事」が関連していない場合の評価方法についてまとめると、次のように図のように説明できます。
6か月よりも前の出来事を考慮する場合
うつ病などの精神障害で労災が認められるためには、2つ目の要件である「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められる」ということが必要です。
このように、業務による心理的負荷(ストレス)の評価期間は、「発病前おおむね6か月」に限定されています。
ところが、「発病前おおむね6か月」の「出来事」に限定をしてしまうと、ストレスを適切に評価できない場合があります。その場合、例外となる基準が定められています。
ハラスメントやいじめの場合
ハラスメントやいじめのように「出来事」が繰り返される場合があります。
この場合、繰り返される「出来事」を一体のものとして心理的負荷(ストレス)の強さを評価することが必要です。
そのため、精神障害を発病した6か月よりも前にハラスメントやいじめ(出来事)が始まっていた場合には、発病前おおむね6か月の期間もその「出来事」が続いているときは、ハラスメントやいじめが始まったときからすべての行為を評価の対象とすることができます。
「出来事」が継続している場合
同じように、「出来事」の始まりが発病の6か月より前の場合でも、その「出来事」(出来事後の状況)が継続している場合は、発病前おおむね6か月の間における状況や対応について評価の対象とすることができます。
例えば、業務上の傷病で長期療養中の場合、その傷病が発生したのは発病の6か月より前のことでも、発病前おおむね6か月の間に生じている強い苦痛や社会復帰が困難な状況などを「出来事」として評価することになります。
労災(業務上)と認定されるポイントを理解して手続を進めよう!
ご紹介した「うつ病の労災認定基準は?労基署に『仕事が原因』と認めてもらう方法」を読めば、労基署はどういう場合に「仕事が原因」で精神障害を発病したと判断しているのかがわかります!
最後に、ご紹介した内容をおさらいしておきましょう。
労基署が「仕事が原因」と認定するポイントは、次のようなものです!
- 「仕事が原因」で精神障害を発病したとされるのは、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」の場合です。
- 「心理的負荷が極度のもの」や「極度の長時間労働」などの「特別な出来事」があれば、それだけで心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」とされます。
- 「特別な出来事」がない場合は、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」に示された「具体的出来事」に当てはまるものがあるかどうかで判断します。
- 日常的に長時間労働(恒常的長時間労働)がある場合、ハラスメントやいじめがある場合、複数の「出来事」がある場合などは特に注意が必要です。
- 最後に、色々な事情を総合的に判断して、心理的負荷(ストレス)の強さについて全体的に評価します。
ご紹介した内容を理解すれば、労基署はどういう場合に「仕事が原因」で精神障害を発病したと判断しているのかわかるようになります!
「自分の精神障害が労災になるか知りたい!」、「会社に対して損害賠償請求したい!」という方は、別の記事の解説もチェックしてみてくださいね!
失敗しない弁護士の選び方
- 会社のせいでうつ病になったのだから、会社が許せない!何とかしたい!
- 会社に損害賠償請求したい!どうすれば労災認定の可能性を高くできるの?
- 私にベストな方法がよくわからないから、全部おまかせしたい!
「『労災請求・損害賠償請求を失敗したくない人』が選ぶ弁護士・社労士」、それが労災認定と損害賠償請求の両方の専門家である私たちです。
私たちが、これまでに獲得した独自のスキルと経験に基づき、今のあなたの問題を解決するために最適なご提案をさせて頂きます。
まずはあなたのお話、お悩みをお聞かせください。日本全国の対応をしています。
あとは、下のボタンをクリックして、質問に答えるだけで、誰でも簡単にできる無料診断フォームに入力するだけです。
\たった3分で完了/
無料診断を利用しても、ご契約の義務は一切ありません。