ご存知ですか?プロが教える「パワハラ」で労災認定される方法

この記事で解決できるお悩み
  • どうすれば「パワハラ」が原因で精神障害になったと認められるの?
  • 「パワハラ」で労災認定される基準は?
  • 労基署に「パワハラ」で労災と認定してもらうための具体的な方法が知りたい!
弁護士・社労士 小瀬弘典

こんな悩みを解決できる記事を書きました。

精神障害に関する労災申請や、会社に対する損害賠償請求を積極的に取り扱っています。

特に、パワハラについては、弁護士や社労士などの専門家に向けた専門書の執筆をした実績があります。

この記事で解説する「ご存知ですか?プロが教える「パワハラ」で労災認定される方法」を読めば、どうすれば労基署に「パワハラ」で精神障害を発病したと労災認定してもらえるのかがわかります!

専門的な話も多く、難しい部分もありますが、パワハラで労災と認定されるために必要なポイントを、世界一マニアックに解説しています!

まずは、「結論として、どうすれば労基署に「パワハラ」で労災の認定がされるの?」という疑問に回答しているので、ぜひ読んでみてくださいね。

目次

【結論】こうすれば「パワハラ」で労災の認定がされます!

結論

結論として、「パワハラ」が労災と認められるためには、「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められることという基準を満たす必要があります。

そして、「パワハラ」で「業務による強い心理的負荷」が認められるためには、厚生労働省が公表する「業務による心理的負荷評価表」の項目22に定められた、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」における心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」となることが必要です。

つまり、あなたが「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」場合、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「であると認められれば、労災(業務上)であると認められることになります。

これが、パワハラ」で労災の認定がされるために必要なことについての、ほぼすべての答えになります。

「精神障害の労災認定」3ページ

これだけでは、専門家でも理解できません

ただ、これだけではとても専門的すぎて、どういうことだか理解するのは難しいですね。

そして、これだけで理解することができないのは、実は弁護士や社労士などの専門家であっても同じなのです。

だからこそ、パワハラと労災の関係について理解するのは、専門家であっても「難しい」とされているのです。

心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」とは一体どういうことなのか、労基署はどうやって労災かどうかを判断しているのかを、これからなるべく詳しく説明していきます。

パワハラによる精神障害について、実際に労基署が労災と認定した事例や認定しなかった事例については、以下の記事で詳しく説明しています。実際の事例でどのように判断されたか知りたい!という方は、ぜひチェックしてください。

<労災と認められた事例>

<労災と認められなかった事例>

なお、うつ病などの精神障害の発病について、そもそも「労災」だと認めてもらうための認定基準をあまりよく知らない方にむけて、以下の記事で詳しく説明しています。

「心理的負荷(ストレス)ってどういうこと?」「心理的負荷(ストレス)の強さってどうやって判断されるの?」という方は、ぜひチェックしてみてください!

あわせて、そもそも「精神障害で労災が認められるためには、何が必要なの?」「労災が認定がされるための条件を知りたい!」という方は、以下の記事もぜひチェックしてみてください!

「パワハラ」で労災認定されるためには認定基準が重要!

パワハラの労災認定基準

上司等からパワハラを受けた場合、まずは厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」に示された「具体的出来事」の中からパワハラに関係する項目を探します。

すると、「業務による心理的負荷表」「具体的出来事」項目22で、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」と書かれています。

そのため、ここに記載された内容が、パワハラで労災認定されるための基準となります。

具体的な基準は、以下の表で記載したとおりです。

スクロールできます
出来事の類型具体的出来事心理的負荷の総合評価の視点
⑤パワーハラスメント上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた・指導・叱責等の言動に至る経緯や状況等
・身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度、上司(経営者を含む)等との職務上の関係等
・反復・継続など執拗性の状況
・就業環境を害する程度
・会社の対応の有無及び内容、改善の状況等

(注)当該出来事の評価対象とならない対人関係のトラブルは、出来事の類型「対人関係」の各出来事で評価する。

(注)「上司等」には、職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合も含む。
【「弱」になる例】
・上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた
【「中」になる例】
・上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃等が行われ、行為が反復・継続していない

▸治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃
▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃
▸必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
▸無視等の人間関係からの切り離し
▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求
▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求
▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害
【「強」である例】
・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた
・上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた
・上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた

▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必 要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
▸必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
▸無視等の人間関係からの切り離し
▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求
▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求
▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害

・心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった

※性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含む。
「精神障害の労災認定」8ページ

項目が多くてわかりづらいですが、これからこの表の読み方を解説していきます。

心理的負荷(ストレス)の強さが「強」だけが対象

ここで、パワハラで労災が認められるためには、最初に「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められることという基準を満たす必要があると説明したことを思い出してください。

そして、「業務による強い心理的負荷」が認められるためには、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」となることが必要と解説しました。

そして、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」となるのは、「業務による心理的負荷表」に示された「具体的出来事」の中で「心理的負荷(ストレス)の強度を『強』と判断する具体例」に記載されたような事実が認められる場合です。

言葉で説明するだけでは難しいので図で説明すると、以下の図のような関係になります。

パワハラで「強」とされる具体的内容

いよいよ、あなたがパワハラで労災が認められるかどうかの、具体的内容にせまってきました。

ズバリ、「心理的負荷(ストレス)の強度を『強』と判断する具体例」から抜粋した、以下の内容とあなたが同じ体験をしていた場合、労災認定の可能性は非常に高いです。

  • 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた
  • 上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた
  • 上司等から、次のような「精神的攻撃等」を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた

    「精神的攻撃等」の例
    人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
    必要以上に長時間にわたる厳しい叱責(しっせき)、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責(しっせき)など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
    ▸無視等の人間関係からの切り離し
    ▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求
    ▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求
    ▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害
  • 心理的負荷(ストレス)としては「」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった

    ※性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含む。

上に書いた内容とあなたが同じ体験をしていた場合、労災認定の可能性は非常に高いです。もっとも、これらの具体例を見てもまだ、何を指しているのか読み解くのは難しいですよね。

具体例の数は、「•」をした4つです。「▸」を含めた10個ではないので、注意してください。

これから具体例を1つ1つ解説していきます。いよいよ難しくなってきますが、法律に詳しくない方にもなるべくわかりやすいように説明しますね。

治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃

まず、パワハラで「心理的負荷(ストレス)の強度を『強』と判断する具体例」の1つ目は、「上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた」です。

これらの基準は、法律の条文と同じように文言(もんごん)を分解して、ひとつひとつ確定しなければ正確に読み解くことはできません。

上司等

最初は、あなたにパワハラを行った相手が「上司等」に該当することが必要です。これは、「強」となる4つの具体例全部で共通していますので、ここでまとめて解説します。

「上司等」とは、次に定義されるものを指します。

具体例の文言意味
「上司等」職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合も含む。

上の表で書いたように、あなたより地位が上の立場にある者が「上司等」に該当することは当然です。

それだけでなく、あなたの同僚や部下であっても、「その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難」な場合や、「集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合」も、「上司等」にあたります。

わざわざ「上司“等”」と書かれているのは、このためです。

なお、パワハラの相手が「上司等」でない場合、「業務による心理的負荷表」「具体的出来事」項目23の、「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」という項目で労災かどうかを判断します。

治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた

次に、パワハラが「治療を要する程度の暴行等」である必要があります。

ここで、「治療」とは、切り傷を負い市販の絆創膏(ばんそうこう)などで自分で治療を行った場合はこれに含まれず、病院などの医療機関(ケガなので整形外科など)での受診が必要なのでしょうか。

まず、「治療」を要する程度であったかどうかは、パワハラをされた者の主観によって判断するのではなく、医学的に判断されることになります。

そのため、答えは、「医療機関に受診し、積極的かつ適切な治療が必要と診断がされたもの」が前提となります。

ただし、中には軽い骨折をしていたにもかかわらず、病院に通院しなかったようなケースもあります。

そのため、仮に病院に通院しなかったとしても、「本来は医療機関での適切な治療を要する状態」であった場合には、「治療を要する程度の暴行等」に該当するとされています。

結論として、「治療を要する程度の暴行等」があった場合には、心理的負荷(ストレス)の強度が「」と判断されます。

厚生労働省も、次のように回答しています。

医療機関に受診し、積極的かつ適切な治療が必要と診断がされたものを前提としており、他覚的所見がなく療養の必要性が認められない場合はその限りではない。そのため、暴行による外力が身体にどの程度影響を与えたかを十分に調査し判断すること。

また、市販薬等での自主的な治療を行っていた場合でも、本来は医療機関での適切な治療を要する状態であったか否かを調査し判断すること。

「「認定基準」に関する質疑応答集」

なお、この具体例は「身体的攻撃」があったケースを前提にしています。精神的攻撃が行われた場合は、3つ目の具体例の基準が適用されることになります。

身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた

パワハラで「心理的負荷(ストレス)の強度を『強』と判断する具体例」の2つ目は、「上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた」です。

この2つ目の具体例は、「治療を要する程度の暴行等」と認められなかったケースで適用することになります。なぜなら、「治療を要する程度の暴行等」があった場合は、1つ目の具体例が適用されるからです。

そして、身体的攻撃を「反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた」とは、一般的に身体的攻撃が何度も繰り返されてた状況のことを指します。

もっとも、たった一度の身体的攻撃であっても、これが長時間行われ、身体的攻撃の内容も強烈で悪質性が高い場合には、ストレスが強いものとなります。

そのため、身体的攻撃が「反復・継続」された場合だけでなく、たった一度の身体的攻撃であっても「執拗(しつよう)に受けた」と認められる場合があります。

「執拗」と評価される事案について、一般的にはある行動が何度も繰り返されている状況にある場合が多いが、たとえ一度の言動であっても、これが比較的長時間に及ぶものであって、行為態様も強烈で悪質性を有する等の状況がみられるときにも「執拗」と評価すべき場合があるとの趣旨である。

「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」

結論として、治療を要さない程度の暴行であっても、「反復・継続するなどして執拗(しつよう)」に行われた場合には、心理的負荷(ストレス)の強度が「」と判断されます。

他方、パワハラが治療を要さない程度の暴行で、かつ、行為が反復・継続していない場合には、心理的負荷(ストレス)の強度が「」と判断されるため、このパワハラがあっただけでは労災と認められません

精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた

パワハラで「心理的負荷(ストレス)の強度を『強』と判断する具体例」の3つ目は、「上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた」です。

この3つ目の具体例だけ、「次のような精神的攻撃等」として「精神的攻撃」の中でも一定のものに限定されていることに注意が必要です。

心理的負荷(ストレス)の強さが「」の対象となる「精神的攻撃等」とは、次のものです。

反対に、「精神的攻撃等」のパワハラがこれらに該当しない場合、心理的負荷(ストレス)の強さが「」か「」となるため、このパワハラがあっただけでは労災と認められません

精神的攻撃の内容

▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
▸必要以上に長時間にわたる厳しい叱責(しっせき)、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責(しっせき)など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
▸無視等の人間関係からの切り離し
▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求
▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求
▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害

あなたが受けたパワハラが、これらと同じものな場合は「次のような精神的攻撃等」に該当することになります。

ただ、パワハラが「次のような精神的攻撃等」であったとしえも、それだけでは心理的負荷(ストレス)の強さが「」となりません。

あなたが受けたパワハラが「次のような精神的攻撃等」に該当したうえで、かつ、その「精神的攻撃等」が「反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた」場合に、心理的負荷(ストレス)の強さが「」と判断されることになります。

なぜなら、1つ目の具体例である暴行等の身体的攻撃と比べると、「精神的攻撃」の場合はストレスの強さが「弱い」ため、「精神的攻撃等」の内容を一定の範囲に限定したうえでさらに、それが「執拗(しつよう)」なされた場合に限って心理的負荷(ストレス)の強さが「」となります。

このように、パワハラの内容が「精神的攻撃等」の場合、労災と認定されるためには二段階で絞り込まれることに注意してください。

パワハラに対し会社が適切な対応をせず、改善しなかった

パワハラで「心理的負荷(ストレス)の強度を『強』と判断する具体例」の4つ目は、「心理的負荷(ストレス)としては「」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」です。

身体的攻撃や精神的攻撃等のパワハラが、これまで説明した1つ目から3つ目までの具体例に該当する場合、心理的負荷(ストレス)の強さが「」と判断されるため、労災が認定されることになります。

4つ目の具体例は、パワハラがこれまで説明した1つ目から3つ目までの具体例に該当しない場合でも、労災として救済するものです。

心理的負荷(ストレス)が『中』程度のパワハラ

まず、「心理的負荷(ストレス)としては『』程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合」に該当する必要があります。

「『』程度の身体的攻撃、精神的攻撃等」とは、次の3つを指します。

  • 治療を要しない程度の暴行等の身体的攻撃を受けた
  • 反復・継続していない暴行等の身体的攻撃を受けた
  • 反復・継続していない次のような精神的攻撃等を受けた

    「精神的攻撃等」の例
    ▸人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
    ▸必要以上に長時間にわたる厳しい叱責(しっせき)、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責(しっせき)など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
    ▸無視等の人間関係からの切り離し
    ▸業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求
    ▸業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求
    ▸私的なことに過度に立ち入る個の侵害

これら3つのパワハラがあれば、「心理的負荷(ストレス)としては『』程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合」に該当します。

会社が適切な対応をせず、改善しなかった

4つ目の具体例は「心理的負荷(ストレス)としては『』程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合」に該当したうえで、パワハラがあった後の会社の態度が問題になる点が特徴です。

次に、「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等があったに、会社に相談するか、会社がパワハラを把握することが必要です。

最後に、会社がパワハラに対して、「適切な対応をせず、改善をしなかった」場合には、心理的負荷(ストレス)の強さが「」と判断されます。その結果、労災と認定されることになります。

言葉で説明するだけでは難しいので図で説明すると、以下の図のような関係になります。

「パワハラ」の判断に関する労基署の内部基準

これまで説明したように、パワハラの労災認定基準は非常に複雑で、難しいものです。

そのため、厚生労働省は、主に労災の審査を行う労基署に向けて「認定基準の解説」を行っています。

ここからは、この労基署の内部基準について解説していきます。

「パワーハラスメント」とは

「パワーハラスメント」とは、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)及びいわゆるパワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)によって、次のように定義されています。

職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう。

パワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)

そのため、労災認定の基準となる「業務による心理的負荷表」具体的出来事」項目22に記載された、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」における「パワーハラスメント」も、基本的に同じものを指しています。

もっとも、パワハラ防止法の目的労災の目的は異なります。

そこで、労災は、パワハラ防止法にいう「パワーハラスメント」に該当するかどうかを厳格に認定することが目的ではないため、あくまでも労災認定基準として「パワーハラスメント」と評価することが適当かどうかという観点から評価されます。

例えば、労基署による調査の結果、業務上必要で、かつ、相当な範囲で行われる適正な業務指導等であったかどうか、小橋上明らかでない場合もあります。

そのような場合でも、当事者等からの聴取によって被害者の主張がより具体的で合理的である場合は、職場におけるパワーハラスメントに該当する事実があったと認定できるとされています。

そして、客観的な資料がないというだけの理由から、「パワーハラスメント」の問題ではなく「対人関係」の問題と判断してはならないとされています。

優越的な関係


「優越的な関係を背景とした」言動とは、業務を遂行するに当たり、その言動を受ける労働者がその言動の行為者とされる者(上司等)に対し、抵抗又は拒絶することができない可能性が高い人的な関係を背景として行われるものを指します。

そのため、「上司等」とは、職務上の地位が上位の者だけに限らず、例えば、職歴が長い者(いわゆる職場の先輩)も含まれる場合があります。

さらに、同僚や部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合も含みます。

業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、社会通念に照らし、その言動が明らかに業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動の例
  • 業務上明らかに必要性のない言動
  • 業務の目的を大きく逸脱した言動
  • 業務を遂行するための手段として不適当な言動
  • 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動など

このため、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

しかし、原因が業務指導の範囲内で行われたものであっても、指導の際に、人格や人間性を否定するような言動が行われる場合があります。

このように、指導の態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超えた場合には、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動が行われたと評価されます。

そして、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動に該当するかの判断は、次のような要素に基づいて行われます。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動の判断要素
  • 当該言動の目的
  • 当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況
  • 業種・業態
  • 業務の内容・性質
  • 当該言動の態様・頻度・継続性
  • 労働者の属性や心身の状況
  • 行為者との関係性など

身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメント

「身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメント」とは、パワハラ防止指針において代表的な言動の類型として示される次の6つを含むものです。

「パワーハラスメント」の6類型
  • 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
  • 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  • 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
  • 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  • 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

この6類型のうち、③から⑥の言動は①、②の言動に関連して行われることが少なくないため、これらを一体のものとして評価するとされています。

また、パワーハラスメントに該当する言動(特に③から⑤の言動)の一部は、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった(項目7)」や「退職を強要された(項目16)」など、他の具体的出来事にも該当することもあります。

このような言動については、出来事が複数ある場合の評価方法と同じように、いずれかの具体的出来事に当てはめたときに「」の評価となることが明らかな場合は、心理的負荷(ストレス)の強度の総合評価が「強」と判断される結果、労災であると認定されます。

出来事が複数ある場合の評価方法については、以下の記事で詳しく解説しています。まだ読んでいない方はぜひチェックしてください!

他方、「」の評価となることが明らかでない場合には、①、②などの他のパワーハラスメントに該当する言動があればこれとの関連性についても検討した上で、その言動の内容に応じ、最も適切に評価しうる具体的出来事に当てはめて評価するとされています。

なお、職場において労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の情報に関する噂により被害に遭った場合には、上司等から当該労働者への直接的言動ではないことから、パワーハラスメントには当たらず、「同僚等から暴行又はひどいいじめ、嫌がらせを受けた(項目23)」で評価されます。

また、労働者がパワーハラスメントを受けた主張する事案であっても、労基署による調査の結果、パワーハラスメントとして評価の対象とならないことが明らかであり、対人関係のトラブルに該当すると判断される場合には、出来事の類型「⑥対人
関係」の各出来事で評価します。

そのため、例えば、上司からの業務指示や指導が、業務上必要かつ相当な範囲内の適正なものである場合には、「上司とのトラプルがあった(項目24)」で評価します。

また、職場における優越的な関係を背景としない同僚から暴行を受けた場合には、「同僚等から、暴行又はひどいいじめ、嫌がらせを受けた(項目23)」で評価します。

総合評価の視点

パワーハラスメントによる心理的負荷(ストレス)の強さについては、「総合評価の視点」で記載された次の視点から総合評価を行います。

総合評価の視点
  • 指導・叱責等の言動に至る経緯や状況(パワーハラスメント行為者との関係性、きっかけ・理由・言動の目的、労働者の閑題行動の有無とその内容等)
  • 身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度(態様、手段、行われた場所、時間の長さ、時間帯等)
  • 上司(経営者を含む)等との職務上の関係
  • 反復・継続など執拗性(しつようせい)の状況(時間の長さ、回数、頻度、態様等)
  • 就業環境を害する程度(就業上の支障や悪影響の有無、その内容、態様等)及び会社の対応の有無及び内容
  • 改善の状況(会社側への相談状況、会社側の問題認識状況、会社側の対応及びその結果、職場の支援・協力(問題
    への対処)等の欠如等)

また、パワーハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、繰り返される出来事を一体のものとして評価する必要があります。

そのため、精神障害の発病6か月よりも前にパワハラが開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、パワハラの開始時からのすべての行為を評価の対象とします。

労基署による「パワハラ」の調査方法

パワハラの労災認定基準が複雑で難しいものであるのと同じように、労基署によるパワハラの調査も難しいです。

そのため、厚生労働省は、主に労災の審査を行う労基署に向けて「調査要領」にて調査の仕方を解説しています。

ここからは、この労基署によるパワハラの調査方法について解説していきます。

指導・叱責(しっせき)等の言動に至る経緯や状況に関する調査

指導・叱責(しっせき)等の言動に至る経緯や状況の調査事項は、次のとおりです。

調査事項
  • パワーハラスメントの行為者との関係性
  • きっかけ・理由・言動の目的
  • 労働者の問題行動の有無とその内容など

指導・叱責(しっせき)等の言動に至る経緯や状況の調査方法は、次のとおりです。

調査方法
  • 請求人及び事業場関係者(パワーハラスメントの行為者及び行為者ではない上司、同僚等)からの聴取
  • 業務指導に関する資料(業務指示書、日報、上司等との指示・打合せ・連絡のメール等)の収集
  • 事業場内での実態調査を行っている場合は当該記録の収集
  • 請求人からの日記・手帳・メールその他からのパワーハラスメントに関するメモ・記録等の収集
  • 当該労働者がパワーハラスメントについて個人的に相談等を行っている場合には相談相手からの聴取やその記録の収集

身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度に関する調査

身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度に関する調査事項は、次のとおりです。

調査事項
  • 身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度(態様、手段、行われた場所、時間の長さ、時間帯等)
  • 反復・継続など執拗性の状況(時間の長さ、回数、頻度、態様等)
  • 就業環境を害する程度(就業上の支障や悪影響の有無、その内容、態様等)

身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度に関する調査方法は、次のとおりです。

調査方法
  • 請求人及び事業場関係者(パワーハラスメントの行為者及び行為者ではない上司、同僚等)からの聴取
  • 業務指導に関する資料(業務指示書、日報、上司等との指示・打合せ・連絡のメール等)の収集
  • 事業場内での実態調査を行っている場合は当該記録の収集
  • 請求人からの日記・手帳・メールその他からのパワーハラスメントに関するメモ・記録等の収集
  • 当該労働者がパワーハラスメントについて個人的に相談等を行っている場合には相談相手からの聴取やその記録の収集
  • 暴行の治療を受けている場合にはその治療を担当する主治医からの意見書の収集

会社の対応の有無及び内容、改善の状況に関する調査

会社の対応の有無及び内容、改善の状況に関する調査事項は、次のとおりです。

調査事項
  • 会社の対応の有無及び内容
  • 改善の状況(会社側への相談状況、会社側の問題認識状況、会社側の対応及びその結果、職場の支援・協力(問題への対処)など)

会社の対応の有無及び内容、改善の状況に関する調査方法は、次のとおりです。

調査方法
  • 請求人及び事業場関係者(事業場内の相談窓口で相談を受けた者や相談ヘの対応に関する責任者)からの聴取
  • 事業場からの対応等に係る資料(相談記録、実態調査、社内の検討過程、トラブル対処の実施状況、処分等の対応
    結果等)の収集

労災の判断は「労基署でも難しい」

労災認定の基準については、「業務による心理的負荷表」や、これまでの労基署の内部基準で詳しく説明してきました。

しかし、労災かどうかを実際に審査する立場の労基署にしてみれば、これまでの解説を理解したとしても、さらなる疑問点が出てきます。

そのため、厚生労働省は、主に労災の審査を行う労基署に向けて「質疑応答集」を作成し、Q&Aで解説をしています。

ここからは、厚生労働省が作成した「質疑応答集」の中から、パワハラに関連する事項について説明します。

「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた(項目22) 」と「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた(項目23) 」、「上司とのトラブルがあった(項目24) 」の具体的出来事をどのように区別すべきでしょうか。

職場において上司等から受けた業務上必要のない行為、例えば、労働者の問題行動に対応する指導・叱責等であっても、その態様等が社会通念から逸脱しているものや、人格・人間性否定にあたる言動があるものについては、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた(項目22) 」で評価します。

社内の立場上では同僚であっても、経歴の差に基づく優越性や、複数の同僚でその者らの協力なしに当該労働者の業務遂行ができないといった優越性を有した関係にある者は「上司等」に含みます。

優越性のない「同僚・部下等」から受けた上記のような行為は「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた(項目23) 」で評価します。

たとえ上司等から受けた行為であっても、「業務上必要かつ相当な範囲内の指導・叱責(しっせき)」が客観的に確認できる場合、例えば、労働者の問題行動に対応する指導・叱責(しっせき)の態様等が社会通念上妥当であり、指導・叱責(しっせき)の中で人格・人間性否定に当たる言動がないようなもの、については「上司とのトラブルがあった(項目24) 」に当てはめ評価します。

「上司等」には、同僚又は部下からの集団による行為も含むとされていますが、集団は何名以上と考えれば良いでしょうか。

同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合も「上司等」に含むとされていることから、情報を共有した複数名(2名以上)の同僚や部下が、精神的攻撃又は身体的攻撃を行い、当該労働者がこれに抵抗・拒絶できない場合を想定しています。

なお、複数名の同僚や部下から、精神的攻撃又は身体的攻撃を受けた場合であっても、各々の行為に関連性が認められず、抵抗・拒絶が困難でない場合は、「上司等」に該当しません。

その場合には項目22の「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」ではなく、項目23の「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」で評価することになります。

単に言葉遣いが乱暴な場合(例えば、普通の声で上司から「バカ者」と1回言われた程度等)の具体的出来事への当てはめはどのようにすべきでしょうか。

「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」とは、上司等から業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境が害されるような言動を受けた場合を指します。

質問のように、単に言葉遣いが乱暴な場合でも上司からの人格・人間性を否定する発言であれば「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」に当てはめて評価します。

なお、パワーハラスメントの内容について関係者の話が食い違う場合であっても、そのことだけで心理的負荷(ストレス)の強度を「弱」とすることなく、当該労働者の主張と上司の主張、どちらに合理性があるかを踏まえて事実認定を行い、その上で心理的負荷(ストレス)の強度を判断する必要があります。

心理的負荷の強度が「強」である例で、精神的攻撃が執拗(しつよう)に行われた場合とありますが「執拗(しつよう)」とはどのような場合でしょうか。例えば、語尾などに「バカ」、「アホ」と付けてしまうことが口癖だった場合は執拗(しつよう)には当たらないのでしょうか。

「執拗(しつよう)」とは、しつこく何度も繰り返し行われた場合を主に想定している。回数(頻度)や時間的経過の要素(長さ・行為ごとの間隔の密度)等を考慮して評価します。

また、精神的攻撃が1日だけの場合であっても、その1日の中での回数や時間を考慮し、長時間にわたって、又はしつこく何度も繰り返し行われた場合は執拗(しつよう)と判断される場合があります。

なお、単に口癖であることだけで心理的負荷(ストレス)の強度が「弱」であるとの評価をしてはいけません。

上司等の口癖で「バカ」、「アホ」と言ってしまう場合でも、叱責(しっせき)の場では人間性を否定する発言
となることから、特定の者だけに対する発言であるか、意図しての発言であるかなど、客観的視点からその発言の態様や手段を総合的に評価して執拗(しつよう)に行われたか否かを評価することになりまる。

「必要以上に長時間にわたる厳しい叱責(しっせき)」とありますが、「必要以上に長時間」の目安はどの程度でしょうか。

「必要以上に長時間」の程度について明確な基準はありませんが、総合評価の視点もふまえ、その指導内容からみて当然必要な時間といえるか否か、就業環境が害される程度のものであったか否かによって判断します。

また、精神的攻撃が「強」である場合はこれが「執拗(しつよう)」に行われていた場合であり、叱責(しっせき)されていた時間だけでなく、回数(頻度)や態様等についても調査し総合的に判断する必要があります。

他の労働者の面前における威圧的な叱責(しっせき)など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃とあります。そこで、「物を投げつける」、「机を強く叩いて大きな音を出す」などの行為はこれに似たものとして考えて良いでしょうか。

パワハラ防止指針では、身体的な攻撃(暴行・傷害)として相手に物を投げつけること、精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)として他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責(しっせき)を繰り返し行うこと、が例示されています。

このことから、質問の「物を投げつける」行為は、身体的攻撃に該当し、「机を強く叩いて大きな音を出す」といった行為は、威圧的な叱責(しっせき)と言えるため精神的攻撃に含まれると考えられます。

心理的負荷の強度が「強」の例で、暴行等(の身体的攻繋)を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けたとあります。発病前おおむね6か月の間に2回以上あれば「執拗(しつよう)」に該当すると考えて良いでしょうか。

2回以上の身体的攻撃を受けたことだけで、ただちに執拗(しつよう)に受けたと判断するのではなく、治療を要さない程度の殴る・蹴るなどの身体的攻撃の回数(頻度)と時間的経過等の要素を考慮し、総合的に判断します。

また、発病前おおむね6か月の間より前であっても、その行為が継続されている場合はパワハラ行為の開始時から評価します。

なお、長時間にわたる精神的攻撃を受けている最中に、治療を要しない程度の暴行を1回受けた場合は、それが1日のみの出来事であったとしても、精神的攻撃の態様によって心理的負荷(ストレス)の強度が「強」と判断されることがあります。

心理的負荷の強度が「強」である例で、治療を要する程度の暴行等を受けたとあります。この「治療」とは、切り傷を負い市販の絆創膏(ばんそうこう)などで自主治療を行った場合はこれに含まれず、病院の受診が前提となるのでしょうか。

医療機関に受診し、積極的かつ適切な治療が必要と診断がされたものを前提としており、他覚的所見がなく療養の必要性が認められない場合は「治療を要する」とはいえません。

そのため、暴行による外力が身体にどの程度影響を与えたかを十分に調査し判断します。

また、市販薬等での自主的な治療を行っていた場合でも、本来は医療機関での適切な治療を要する状態であったか否かを調査して判断します。

治療が必要ではなくても、「髪の毛を切られる」、「水をかけられる」等の行き過ぎた行為があった場合、治療を要する程度の暴行等を受けた場合と評価してよいでしょうか。

無理矢理に髪を切られた場合は刑法で暴行罪に問われるものであり、その程度や反復・継続など執拗性(しつようせい)を考慮して、総合評価の視点から評価します。

例えば、見た目の変化が一見して分かるほどに髪を切られるなどの常軌を逸した行為は、「暴行等(の身体的攻撃)を執拗(しつよう)に受けた場合」に該当します。

また、水をかけられた場合についても、かけられた液体の種類、回数(頻度)、態様を考慮し、総合評価の視点から「暴行等(の身体的攻撃)を執拗(しつよう)に受けた場合」に該当するか否かを評価します。

複数の上司から身体的攻撃・精神的攻撃等を受けた場合、個々の行為が「強である例」に該当しなくとも、執拗(しつよう)に行われたものと考えてよいでしょうか。

複数の上司による各々の行為に関連性が認められる場合は、全体を1つの出来事として総合的な視点で執拗(しつよう)に行われたものか否かを調査し判断します。

各々の行為に関連性がないものは、関連しない複数の出来事として回数(頻度)や時間的経過の要素(長さ・行為ごとの間隔の密度)を考慮し、総合的に見て強い心理的負荷であったかどうかを判断します。

上司から受けたパワーハラスメントによる心理的負荷は「中」ですが、その後周りとのコミュニケーションが取れなくなった場合は、パワーハラスメント後の人間関係悪化を考慮して「強」となると考えてよいでしょうか。

総合評価の視点を踏まえ、会社の対応の有無及び内容、就業環境を害される程度のものかどうかで判断します。

なお、単に当該労働者がパワーハラスメント後に周りとのコミュニケーションが取れなくなったとの理由だけでは「強」となりません

「業務により重度の病気やケガをした」(項目1) で「強」になる病気やケガの程度は「長期間の入院を要する」「大きな後遺障害を残すような」等とされています。他方、出来事の類型⑤「パワーハラスメント」と類型⑥ 「対人関係」で強になるケガの程度は「治療を要する程度」としています。これらが違う理由はなんでしょうか。

項目1は、業務上の傷病に伴う一時的なうつ状態、不眠、不定愁訴(ふていしゅうそ)等に対して行われる投薬等については、当初の傷病に併発するものとして支給することを前提としています。

他方、「パワーハラスメント」及び「対人関係」における治療を要する暴行については、日常的な業務対応をせざるを得ない対人関係の下で生じるものであることから、負傷した際に対人関係の不安定さが生ずる等により、ストレス反応への関与度等も比較的大きいものとなりやすいと考えられるからです。

このように、対人関係上の問題による暴行による負傷、人間の悪意が絡んだ負傷と、転んだ、機械に挟まれた等の理由による負傷を単純に比較することもできないことから、違いが生じています。

「パワハラ」で労災認定される方法を理解して手続を進めよう!

ご紹介したご存知ですか?プロが教える「パワハラ」で労災認定される方法を読めば、どうすれば労基署に「パワハラ」で精神障害を発病したと労災認定してもらえるのかがわかります!

最後に、ご紹介した内容をおさらいしておきましょう。

労基署が「パワハラ」で労災と認定するポイントは、次のようなものです!

  • パワハラが原因で精神障害を発病したとされるのは、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」の場合です。
  • パワハラの心理的負荷(ストレス)の強さは、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(項目22)で評価します。
  • パワハラで心理的負荷(ストレス)の総合評価が「」とされるのは、次の4つです。
    ▸上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた
    ▸上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた
    ▸上司等から、一定の限定された「精神的攻撃等」を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた
    ▸心理的負荷(ストレス)としては「」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった
  • パワハラが労災かどうかを判断することは、労基署でも難しいことです。そのため、厚生労働省は労基署に向けて、多くの解説資料を作っています。
  • だから、普通の人はもちろん専門家であっても、パワハラの労災申請に関する知識や経験が十分になければ、パワハラが労災であるかかどうかを判断することは非常に難しいものとなります。

ご紹介した内容を理解すれば、どうすれば労基署に「パワハラ」で精神障害を発病したと労災認定してもらえるのかわかるようになります!

「自分の精神障害が労災になるか知りたい!」、「会社に対して損害賠償請求したい!」という方は、別の記事の解説もチェックしてみてくださいね!

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この記事を書いた人

小瀬 弘典のアバター 小瀬 弘典 弁護士 ・社労士

弁護士・社会保険労務士の小瀬 弘典(オセ ヒロノリ)です。

2011年に弁護士登録してから、年間300件以上の法律相談と紛争解決業務に携わってきました。

他の弁護士と違うのは、社会保険労務士の資格を持ち、「うつ病」などの精神障害の労災・損害賠償請求について独自のスキルと経験を身につけている点です。

これまでに多くの結果を出してきた手法やノウハウを、惜しみなく提供していきます。

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