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うつ病になった会社員へ!弁護士が教える損害賠償請求に必要なこと

この記事で解決できるお悩み
  • 法律上、会社に損害賠償請求するためには何が必要なの?
  • 労災と損害賠償とで何が違うの?両者は関係しているの?
  • 裁判所が、うつ病などの精神障害の損害賠償について、どのように判断しているか知りたい!
弁護士・社労士 小瀬弘典

こんな悩みを解決できる記事を書きました。

精神障害に関する労災申請や、会社に対する損害賠償請求を積極的に取り扱っています。

この記事で解説する「うつ病になった会社員が損害賠償請求するために必要なこと」を読めば、法律上、どんな場合に損害賠償の請求が認められるのか、どうやって請求をすればよいのか、裁判所はどのように慰謝料などの判断をしているのか、わかるようになります!

まずは、「結論として、会社に損害賠償請求するためには、何が必要なの?」という疑問に回答しているので、ぜひ読んでみてくださいね。

目次

会社に損害賠償請求するために法律上必要なもの

結論

結論として、法律上、会社に損害賠償請求をするためには、次の2つが必要です。

  • 会社に法的な責任があること
  • 会社の行為によって、あなたに損害が発生したこと

責任論と損害論

まず、会社に責任がなければ、仮に損害が発生したとしてもそれは会社のせいではないため、損害賠償の請求をすることはできません。

この問題は法的に「責任論」(せきにんろん)といいます。

また、仮に会社に責任があったとしても、それによって損害が発生したのでなければ、その損害の賠償を請求することはできません。

この問題は法的に「損害論」(そんがいろん)といいます。

なるべくわかりやすく説明しましたが、実は、これだけで何百ページもある法律の専門書が書けるくらい法的に難しいポイントです。

そこで、ここからはこの2つのポイント(責任論と損害論)について詳しく解説しますね。

会社の責任か?(責任論)

会社に生じる2つの責任

労働者が会社に対して損害賠償請求をする場合、法律上の根拠として次の2つのどちらか(または両方)が認められなければなりません。

  • 債務不履行責任(さいむふりこうせきにん)
  • 不法行為責任(ふほうこういせきにん)

このどちらも認められない場合、仮に労働者に損害が発生していたとしても、法的には会社の責任ではないということになります。そのため、損害賠償を請求することはできません。

会社の責任の根拠となる2つについて、これから具体的に説明します。

債務不履行責任

安全配慮義務の確立

労働者が会社に対して損害賠償請求をする場合、まず債務不履行責任(民法415条)を根拠とすることが考えられます。

そして会社が負う「債務」の具体的な中身は、安全配慮義務(あんぜんはいりょぎむ)として確立されています。

安全配慮義務とは、以下の2つの最高裁の判例によって、次のようなものとされています。

「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められる」(陸上自衛隊八戸工場事件・最判昭50・2・25 民集29巻2号143頁)ものです。

そして、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(川義事件・最判昭59・4・10民集38巻6号557頁)であるとされています。

これらの最高裁判例をうけて、労働契約法5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められました。

なお、「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれます(平成20年1月23日基発第0123004号)。

安全配慮義務の内容

労働契約法5条において、安全配慮義務が法律上定められています。しかし、安全配慮義務が具体的にどのような内容の義務であるのか、条文上明らかではありません。

先ほどの最高裁判例でも「安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なる」(川義事件・最判昭59・4・10民集38巻6号557頁)と、抽象的に述べられているとどまります。

安全配慮義務に関する現在までの判例・裁判例をまとめると、具体的な内容は次の2つ(2はさらに①と②に分かれます)とされています。

  1. 労働者の利用する物的施設・機械等を設備する義務
  2. 安全等を確保するための人的管理を適切に行う義務
    ①危険作業を行うための十分な資格・経験を持つ労働者を配置する義務
    ②安全教育を行い、あるいは危険を回避するための適切な注意や作業管理を行う義務

長時間労働をした労働者への「健康配慮義務」は、上の2②の問題です。この場合、会社には具体的に次のような配慮がもとめられます。

  1. 労働時間、業務状況の把握
  2. 健康診断等による労働者の心身の健康状態の把握と健康管理の実施
  3. 適切な労働条件の確保
  4. 労働者の年齢、健康状態等に応じた労働時間・業務の軽減措置

特に、心身の健康状態が悪化した労働者については、③(適切な労働条件の確保)と④(労働者の年齢、健康状態等に応じた労働時間・業務の軽減措置)に関し、特別の配慮が必要です。

安全配慮義務の立証責任

労働者が、会社の債務不履行(安全配慮義務違反)を根拠に損害賠償請求をする場合、労働者と会社のどちらに立証責任があるのでしょうか。

最高裁判例によると、国の安全配慮義務についてですが、「義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張・立証する責任は、国の義務違反を主張する原告にある」(航空自衛隊事件・最判56・2・16民集35巻1号56頁)とされました。

同じように、一般企業についても、安全配慮義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する具体的事実については、安全配慮義務違反を主張する労働者側に主張・立証責任があります。

不法行為責任

労働者が会社に対して損害賠償請求をする場合、契約に基づかない責任として、不法行為責任(民法709条)を根拠とすることも考えられます。

不法行為に基づく損害賠償請求とは、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(民法709条)ものです。

一般的な不法行為責任が認められるために必要な条件(要件)として、次の4つをすべて満たす必要があります。

  1. 故意または過失が存在すること
  2. 他人の権利を侵害したこと
  3. 損害が発生したこと
  4. 行為と損害との間に因果関係が存在すること

また、他の従業員がパワハラやセクハラをした場合のように、個人の不法行為責任を前提として、会社に対し損害賠償請求をする場合もあります。

これは、法律上「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」(民法715条)と規定され、使用者責任と呼ばれています。

この使用者責任が認められるための条件(要件)は、以下の3つです。

  1. 使用・被用の関係が存在すること
  2. その被用者の行為が民法709条の不法行為の要件を満たしていること(上の4つの要件を満たしていること)
  3. その損害が事業の執行につき加えられたものであること

なお、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」には、会社は責任を負いません(民法715条1項ただし書き)。

もっとも、この免責規定が適用され、会社が責任を負わないとされる場合は、ほぼ存在しない状況です。

不法行為の立証責任

労働者が会社に対し、不法行為責任を根拠に損害賠償請求をする場合、労働者と会社のどちらに立証責任があるのでしょうか。

不法行為責任の立証責任は、不法行為に基づく損害賠償請求をする労働者側にあるとされています(水戸地判平5・12・20、神戸地判昭59・9・27参照)。

そのため、自分の権利を実現しようとする労働者が、積極的に主張・立証しなければなりません。

発生した損害は?(損害論)

損害の種類(費目)

損害が発生しなければ、その損害を回復するための賠償を行う必要はありません。そのため、まず何らかの損害が発生していることが必要になります。

うつ病などの精神障害のよる損害賠償請求の場合、概ね次のような損害の発生が考えられます。

積極損害

積極損害とは、現に受けた損失のことをいいます。例えば、治療費や通院のための交通費など、実際に発生したマイナスのものを指します。

消極的損害

消極的損害とは、得(う)べかりし利益の喪失のことをいいます。例えば休業損害のように、プラスの利益を獲得しそこなったものを指します。

慰謝料

慰謝料とは、負傷などによって生じる精神的苦痛をいいます。ただし、被害者が現実に苦痛を感じたか否かとは必ずしも一致するものではありません。そういう意味で、慰謝料とはフィクションの要素を含んだ概念です。

うつ病などの精神障害のよる損害賠償請求の場合、(入)通院したことに対する慰謝料と、後遺障害を残す症状が残った場合の慰謝料の2つがあります。

重要なポイントは、もともと金銭的な価値の評価をすることが難しい精神的苦痛を無理やり金銭として評価するわけですから、精神的苦痛の程度を人ごとに判断するのは現実的ではないという点です。

また、人によって慰謝料の金額が大きく違うことになると不公平です。

そのため、慰謝料は「こういう場合はこのくらい」と、ある程度事前に決められた金額(定額化した金額)が認められるということになります。

つまり、精神的苦痛を訴える声が大きい人には慰謝料が多く、我慢強い人には慰謝料が少なくなるということにはならいという点がポイントです。

この点を誤解している方が多いので、注意してください。

損害一覧表

これらの損害の内容(費目)をまとめると、次の表のようになります。

積極損害治療費、通院交通費、入院雑費、(自殺の場合)葬儀費用、その他実際に支出した金銭など
消極的損害休業損害、後遺障害による逸失利益、(自殺の場合)死亡逸失利益
精神的苦痛に対する慰謝料入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、(自殺の場合)死亡慰謝料、近親者固有の慰謝料

※近親者固有の慰謝料については、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任を法律上の根拠とした場合には近親者と使用者等が契約関係に立たないことから、認められないとされています(最一小判昭55・12・18(民集34巻1号888頁)
弁護士費用相当損害金(裁判)判決認容額の約10%
※裁判をして、判決まで進んだ場合に限って認められます。

労災と損害賠償請求との違い

労災保険制度は業務上の事由または通勤途上の傷病等を保険対象としていますが、その支給要件として事業主(使用者)の故意・過失を要求していません。

労災保険における補償内容は、休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付の支給額がいずれも給付基礎日額全額には満たないことや、物損や慰謝料がそもそも労災保険の補償対象外であることなどからすれば、被災結果によって被災労働者が被った損害のすべてを填補するには不十分です。

このように、労災と損害賠償請求は、請求内容や請求先、請求が認められる要件などにおいて、様々な相違点があります。

労災請求損害賠償請求
請求先国(厚生労働省、労働基準監督署)会社、事業主など
請求内容<保険給付>
治療費、休業補償、障害補償、介護補償、葬祭料など
<損害賠償金>
治療費、休業損害、逸失利益、介護費、葬儀費用、慰謝料、物損
請求権者(病気やケガ)被災労働者被災労働者
近親者(固有の慰謝料)
請求権者(死亡)労災保険法上の「遺族」等法定相続人
近親者(固有の慰謝料)
過失相殺の有無なし
(例外として労働者災害補償保険法12条の2の2)
ありうる
(民法418条、722条2項)
手続労働基準監督署長に対する労災請求会社・事業主等との交渉、裁判所に対する訴訟提起など
判断する機関労働基準監督署長裁判所
時効給付の種類によって2年または5年<人の生命・身体の侵害による損害賠償請求の場合>
主観的起算点から5年(客観的起算点から20年)

<精神疾患には至っていない場合(慰謝料のみの請求など)>
安全配慮義務違反:主観的起算点から5年(客観的起算点から10年)
不法行為:主観的起算点から3年(客観的起算点から20年)
不服申立制度(行政手続)審査請求、再審査請求
(訴訟)処分取消訴訟
控訴、上告
手続に要する費用(※)行政段階であれば無料請求額に応じた収入印紙・郵便切手代
※弁護士費用などは含みません (古川拓『労災事件救済の手引』(青林書院 2017年)202頁の表を基に、債権法改正に対応させるなど一部修正)

因果関係

「あれなければこれなし」(条件関係)

損害が発生していたとしても、それが会社の義務違反・行為に「よって」発生したものでなければ、会社に対して損害賠償請求をすることはできません。

これは、損害賠償請求が認められるためには、法的な「因果関係」が必要であるということを意味します。

法的な因果関係が認められるためには、まず、事実的な因果関係があることが前提となります。そして、事実的な因果関係は、典型的には「あれなければこれなし」とされる条件関係で検討されます。

例えば、上司AからBが殴られて、Bはケガをして病院の治療費が発生した事例を考えてみます。行為は上司AがBを殴ったこと、損害はBの治療費です。

この例で「あれなければこれなし」を検討すると、上司AがBを殴らなければ、Bは病院に行って治療費を支払うこともなかったといえます。そのため、上司Aの行為とBの損害との間には、事実的な因果関係が認められることになります。

このように、事実的な因果関係は、行為を取り除いたとき損害は発生しなかったといえる場合に認められます。ここまでは、誰でも直感的にも理解できるでしょう。

しかし、因果関係の問題はこれで終わりではありません。

相当因果関係

それでは、事実的な因果関係が認められれば、法的な因果関係が認められるのでしょうか。次のような例を考えてみます。

事例

借金を抱えていたAは、Bが死ねば保険金がもらえるため、Bが一刻も早く死ぬことを願っていました。

飛行機に乗せたら墜落して死ぬかもしれないと考え、AはBに航空券と一緒に旅行チケットをプレゼントしました。

Bは、喜んで飛行機に乗ったところ、Aの願いどおり飛行機は墜落してBは死亡しました。

この事例で「あれなければこれなし」で検討すると、AがBに航空券をプレゼントしなければ、Bは死亡することはなかったということになります。

そのため、事実的な因果関係が認められることになります。

しかし、飛行機が墜落したことは極めて可能性の低い偶然なものです。このような場合まで、Aに責任を認めてしまうと、あまりにも責任の範囲が広くなりすぎます

このように、事実的な因果関係があるだけで法的な因果関係を認めてしまうと、責任の範囲が際限なく広がってしまい不都合が生じます。

そこで、法的な因果関係が認められるためには、事実的な因果関係だけでなく「その義務違反・行為から、通常その結果が生じる」という相当因果関係が認められなければならないとされています。

そのため、先ほどの事例では、AがBに航空券を渡しても、Bの乗った飛行機が「通常であれば墜落する」という関係にはないのですから、相当因果関係が認められないということになります。

判例においても、損害賠償責任における因果関係は、債務不履行責任・不法行為責任のいずれにおいても相当因果関係の有無によるとされています(大連判大15・5・22(民集5巻386頁)、最一小判昭48・6・7(民集27巻6号681頁))。

また、因果関係の主張・立証責任は、損害賠償請求をする側(労働者側)にあるとされています。

因果関係の立証の程度については、最高裁判例により次のように示されています。

因果関係の立証の程度

「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挾まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」(最二小判昭50・10・24(民集29巻9号1417頁)

このように、因果関係の判断には「通常その結果が生じる」かという法的な評価がされることから、直感的に因果関係が認められそうな損害に対しても、法的な因果関係が認められるとは限らないことになります。

つまり、法的な因果関係が認められる損害は、あなたが考えているものよりも、かなりの程度制限されたものになります。

直感的に請求できそうな損害について弁護士に相談しても、「その請求は難しい」と言われてしまう理由の一つが、この法的な因果関係の問題なのです。

損害賠償請求のために必要なものを理解して手続を進めよう!

ご紹介したうつ病になった会社員が損害賠償請求するために必要なことを読めば、会社に対して損害賠償請求をするために法律上必要なことが理由がわかるようになります!!

最後に、ご紹介した内容をおさらいしておきましょう。

会社に対して損害賠償請求するために必要なことをまとめると、次のようになります!

  • 会社に対して損害賠償請求をするためには、会社の責任(責任論)であることと、それによって損害が発生したこと(損害論)の2つが必要です。
  • 会社に発生する法律上の責任としては、債務不履行責任(民法415条)と不法行為責任(民法709条)の2つがあります。
  • 債務不履行責任は主に会社の安全配慮義務違反が問題となり、不法行為責任は一般不法行為責任のほか会社の使用者責任が問題となります。
  • 損害は、発生した損害の費目ごとに一つ一つ積み上げて計算します。一つ一つの損害費目の計算をせず、ざっくりと慰謝料の請求をすると、非常に苦しい戦いになります。
  • 単に損害が発生しただけでは足りず、会社に対して損害賠償請求をするためには、損害が会社の責任(行為)に「よって」発生したという法的な因果関係が必要になります。
  • 法的な因果関係とは相当因果関係のことを指します。そのため、会社の責任と事実的な因果関係が認められる損害のなかで、さらに裁判官の価値判断によって「相当」と限定された損害の請求が認められます。

ご紹介した内容を理解すれば、あなたのケースにおいて、会社に対して損害賠償請求できるかどうかわかるようになります!

「自分の精神障害が労災になるか知りたい!」、「会社に対して損害賠償請求したい!」という方は、別の記事の解説もチェックしてみてくださいね!

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この記事を書いた人

小瀬 弘典のアバター 小瀬 弘典 弁護士 ・社労士

弁護士・社会保険労務士の小瀬 弘典(オセ ヒロノリ)です。

2011年に弁護士登録してから、年間300件以上の法律相談と紛争解決業務に携わってきました。

他の弁護士と違うのは、社会保険労務士の資格を持ち、「うつ病」などの精神障害の労災・損害賠償請求について独自のスキルと経験を身につけている点です。

これまでに多くの結果を出してきた手法やノウハウを、惜しみなく提供していきます。

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