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取引先からのクレームで適応障害となった事例:労災と認められた理由とは?

この記事で解決できるお悩み
  • 顧客や取引先から無理な注文や要求を受けた場合、労災になるの?
  • 労災かどうかについて、労基署はどうやって調査しているの?
  • 実際の事例で、労基署がどのように判断したのかを知りたい!
弁護士・社労士 小瀬弘典

こんな悩みを解決できる記事を書きました。

精神障害に関する労災申請や、会社に対する損害賠償請求を積極的に取り扱っています。

この記事で解説する「【取引先からのクレームで適応障害となった事例】労災と認められた理由とは?」を読めば、労基署がどのような事実を重視して労災であると認定した(認定しなった)のか、その理由がわかるようになります!

まずは、「結論として、顧客や取引先から無理な注文や要求を受けた場合、労災になるの?」という疑問に回答しているので、ぜひ読んでみてくださいね。

ただし、結論だけ覚えてもまったく役には立ちませんのでご注意ください!

具体的な事例の中で、労基署はどのようなポイントを重視して判断をしたのか、その判断するプロセス(過程)に注目して読んでくださいね。

厚生労働省が作成した「精神障害の労災認定実務要領」に掲載された事例をもとに一部改変して、解説していきます。

目次

結論とポイント!

認定結果

業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められたため、労災(業務上)であると判断されました。

ポイント

この事案のポイントは、次の2点です。

  • Aさんは、部下のミスをきっかけとして顧客から執拗(しつよう)なクレームを受けていました
  • 執拗(しつよう)なクレームに対し、その後の対応が非常に難しいものであったとされました

「出来事」に対する心理的負荷(ストレス)の強さを判断したポイントや医学意見の聞き取りに関するポイントは、次のとおりです。

  • 本人にミスのないクレームについての心理的負荷(ストレス)は項目9の「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」で評価します
  • 本人にミスがある場合は、項目4の「多額の損失を発生させるなど仕事上のミスをした」で評価します
  • 総合評価の結果、「強」と認められることが明らかな場合は、主治医の意見によって判断をします

事案の概要

業務による心理的負荷(ストレス)について

まずは、登場人物について整理します。

  • 労働者(労災の請求をした人) Aさん
  • Aさんの部下 Bさん
  • Aさんの会社が仕事をうけているマンションの管理組合の人(マンション居住者) Cさん
  • Aさんが働いている会社 X社
Aの日常的な業務

・マンション管理業務の現場責任者として勤務
・マンション居住者への対応
・敷地内の清掃など

年月出来事
平成25年7月平成25年7月下旬、Aと一緒に現場に入っている部下のBが、所定のワックスがけ作業を忘れるということが3回続きました。

現場責任者であったAは、マンションの管理組合構成員である居住者Cから、以後の対応の改善を徹底するよう強く求められました。
平成25年8月平成25年8月上旬、Aは、Cから、些細な汚れでもワックスがけを行うよう再三にわたって求められるようになりました。

Aは、Cが求めるワックスがけはX社の規定を上回る回数ではあったものの、少しであれば問題ないと思い、承諾して対応していました。ワックスがけを行った回数は、規定の2倍に近いものでした。
平成25年8月下旬 Cから最近の管理不行届きについて、説明と謝罪を求めるとの要求があった。
そこで、Aは、Cの家に1人で行かなければならなくなりました。

このとき、Cは、Aの部下であるBがワックスがけを忘れていたことを話題にし、このような問題の反省を踏まえて、住民が不快にならないよう、X社の採算など関係なく言われたとおりにやるべきと要求しました。

Aは、C宅で、結果的に3時間近くそのような内容を聞かされました。
AがC宅を訪れた翌日以降もCの行動はおさまらず、Aを見かけるたびに「自費でワックスを調達して対応しろ」、「仕事をなくす」、「会社を変更する」などと度々強迫、恫喝するようになりました。

Aは、X社における通常の業務報告に加え、本社のカスタマーサービス部門に報告を上げて対応指示を受けるなど、Cのために通常では考えられない調整を行いました。
平成25年9月平成25年9月上旬ころから、Aは、何度も行われるCからの理不尽な要求により体調を崩し、不眠、食欲不振などが生じることとなり、近くの精神科を受診することになりました。

心身の症状について

年月心身の症状
平成25年9月平成25年9月上旬ごろから、Aは、不眠、食欲不振等が生じることになり、近くの精神科を受診することになりました。

主治医などの意見

労基署からの質問事項主治医の意見
貴院への初診日についてご回答ください。平成25年9月10日、当院初診
貴院に受診したきっかけ(来院経路等)及び初診時の主訴について、ご回答ください。平成25年7月ころ、勤務先のマンションの住人からクレームを受け、以後、その住人から繰り返し無理な要求をうけるようになり、同年9月初めより不眠、食欲不振に陥ったとして来院しました。
初診時における症状についてご回答ください。表情に活気がなく、元気がない様子であった。不眠、食欲不振の訴えもありました。
疾患名とそのように判断された根拠について、ご回答ください。(できる限り、ICD-10の診療ガイドラインに基づきお書きください)疾患名:適応障害(F43.2)
診断根拠:不眠、優越感、倦怠感、意欲低下、疲労感がみられることです。
発病時期とそのように診断された根拠について、ご回答ください。(できる限り、発病時期は絞り込んでお書きください)発病時期:平成25年9月上旬ころ
理由:本人が平成25年9月の初めころから不調が生じたと申したてているためです。
発病原因とそのように診断された根拠について、ご回答ください。職場の環境、業務上のストレスが原因と推測されます。(ストレス因と症状現況の時間的関係や、ストレス因からの離脱により回復がみられるためです。)
治療経過、投薬状況などの治療内容、現在の症状について、ご回答ください。薬物療法・精神療法により症状は徐々に改善しています。
精神障害の既往歴について、ご存知であればご回答ください。精神障害の既往歴はなし。
他の医療機関・診療科の受診の有無、有の場合はその内容について、ご存知であればご回答ください。他の医療機関の受診の有無は不明
当署職員がこの方からの聴取を行うに当たっての制限又は留意事項があれば、ご回答ください。聴取は可能であるが、短時間が望ましいです。

就業事項や労働時間の把握など

調査事項調査結果
所定労働時間8:30~17:00(所定労働時間 7時間30分)
出退勤の管理方法タイムカードで出退勤管理
時間外労働時間最長でも月26時間

労基署の判断

具体的出来事

平成25年7月頃、部下が所定のワックスがけ等を忘れるミスが3度続き、これ以降、マンションの居住者Cから多少の汚れがみれられるとすぐにワックスがけを行うよう、再三にわたり要求されるようになりました。

Aは要求にこたえられる範囲内での対応に努めていたが、Cの求めに応じて直接C宅を訪問し謝罪させられるなど、困難な対応を余儀なくされました。

その後も、ことあるごとにCから「仕事をなくす」、「会社を変更する」などと脅迫、恫喝され、本社のカスタマーサービス部門に報告を上げて対応を受けるなど、困難な調整に当たりました。

Cからの要求は不当なものであったが、当該マンションはX社の契約で最大金額の物件であったことに加え、元々のクレームの原因は他の作業員Bのミスが関与していたこともあり、契約破棄ともなれば甚大な損害を被るとの思いから耐えていたことが伺われます。

心理的負荷の総合評価は、「強」と判断します。

恒常的長時間労働

なし

業務以外の出来事

確認できませんでした。

個体側要因

確認できませんでした。

労基署の判断を徹底的に解説!

心理的負荷(ストレス)の強さに対する判断

基準のおさらい

顧客や取引先からクレームを受けた場合の心理的負荷(ストレス)の強さは、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目9「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」によって評価されます。

具体的に該当する項目を次のとおり抜粋します。

スクロールできます
出来事の類型具体的出来事心理的負荷の総合評価の視点
②仕事の失敗、過重な責任の発生等顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた・顧客・取引先の重要性、注文・要求・指摘の内容、会社の被る負担・損害の内容、程度等
・事後対応の困難性、その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係、職場の支援・協力の有無及び内容等
(注)ここでいう「要求等」とは、契約に付帯して商慣習上あり得る要求や、納品物の不適合の指摘等をいう。
(注)顧客からの指摘等が本人のミスによる場合は、項目4で評価する。また、顧客等の行為が著しい迷惑行為に該当する場合は、項目27で評価する。
【「弱」になる例】
・同種の経験等を有する労働者であれば達成可能な注文を出され、業務内容・業務量に一定の変化があった
・要望が示されたが、達成を強く求められるものではなく、業務内容・業務量に大きな変化もなかった
・顧客等から何らかの指摘を受けたが、特に対応を求められるものではなく、取引関係や、業務内容・業務量に大きな変化もなかった
【「中」である例】
・業務に関連して、顧客や取引先から対応が困難な注文(大幅な値下げや納期の繰上げ、度重なる設計変更等)を受け、何らかの事後対応を行った
・業務に関連して、顧客等から納品物の不適合の指摘等その内容は妥当であるが対応が困難な指摘・要求を受け、その事後対応に従事した
・業務に関連して、顧客等から対応が困難な要求等を受け、その対応に従事した
【「強」になる例】
・通常なら拒むことが明らかな注文(業績の著しい悪化が予想される注文、不適切な行為を内包する注文等)ではあるが、重要な顧客や取引先からのものであるためこれを受け、他部門や別の取引先と困難な調整に当たる等の事後対応に多大な労力を費やした
・顧客や取引先から重大な指摘・要求(大口の顧客等の喪失を招きかねないもの、会社の信用を著しく傷つけるもの等)を受け、その解消のために他部門や別の取引先と困難な調整に当たった
業務による心理的負荷表」6ページ

「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」場合の「平均的な心理的負荷の強度」は「Ⅱ」であるとされています。

そのため、「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」場合、一般的な事例では、心理的負荷(ストレス)の強さは「中」となります。

この表の「中」の部分が薄いグリーンで塗られているのは、一般的な心理的負荷(ストレス)の強さは「中」になるという意味です。

この事例のあてはめ

この事例では、AはCから「多少の汚れがみれられうとすぐにワックスがけを行うよう再三にわたり要求」を受けていました。さらに、Aは「Cの求めに応じて直接C宅を訪問し謝罪させられ」ました。

このようなCの注文・要求は、心理的負荷が「強」となる具体例の「通常なら拒むことが明らかな注文」「顧客や取引先から重大な指摘・要求」に該当します。

また、Aが担当していたマンションは「所属事業場の契約で最大金額の物件」であったため、「本社のカスタマーサービス部門に報告を上げて対応」を行いました。

これは、心理的負荷(ストレス)が「強」となる具体例にある「重要な顧客や取引先」からの要求です。

そして、Cのマンションについて契約がなくなれば、会社として重大な損害となってしまうことから、Aは「他部門や別の取引先と困難な調整に当たる等の事後対応に多大な労力を費やした」ものといえます。

このように、Aには、心理的負荷(ストレス)の強さが「強」とされる例に該当する具体的出来事があったことから、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」であると判断されました。

その他の判断

恒常的長時間労働(1か月おおむね100時間の時間外労働)、業務以外の出来事、個体側要因(本人の要因)のいずれも確認できなかったことから、そのまま労災(業務上)であると判断されました。

労基署の判断を理解して手続を進めよう!

ご紹介した「【取引先からのクレームで適応障害となった事例】労災と認められた理由とは?」を読めば、労基署がどのような事実を重視して労災であると認定した(認定しなった)のか、その理由がわかるようになります!!

最後に、ご紹介した内容をおさらいしておきましょう。

今回の事例で労災が認められた理由をまとめると、次のようになります!

  • 厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目9「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」に該当するかどうかを判断します。
  • 今回の事例では、「通常なら拒むことが明らかな注文」や「顧客や取引先から重大な指摘・要求」があり、「他部門や別の取引先と困難な調整に当たる等の事後対応に多大な労力を費やした」とが認められました。
  • 「業務以外の出来事」や「個体側要因」は確認できませんでした。

ご紹介した内容を理解すれば、あなたのケースにおいて、精神障害で労災が認められるために何が必要なのかわかるようになります!

「自分の精神障害が労災になるか知りたい!」、「会社に対して損害賠償請求したい!」という方は、別の記事の解説もチェックしてみてくださいね!

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この記事を書いた人

小瀬 弘典のアバター 小瀬 弘典 弁護士 ・社労士

弁護士・社会保険労務士の小瀬 弘典(オセ ヒロノリ)です。

2011年に弁護士登録してから、年間300件以上の法律相談と紛争解決業務に携わってきました。

他の弁護士と違うのは、社会保険労務士の資格を持ち、「うつ病」などの精神障害の労災・損害賠償請求について独自のスキルと経験を身につけている点です。

これまでに多くの結果を出してきた手法やノウハウを、惜しみなく提供していきます。

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