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1か月に80時間以上の時間外労働を行った事例:労災が認められた理由は?

この記事で解決できるお悩み
  • 1か月に80時間以上の時間外労働を行った場合、労災になるの?
  • 労災かどうかについて、労基署はどうやって調査しているの?
  • 実際の事例で、労基署がどのように判断したのかを知りたい!
弁護士・社労士 小瀬弘典

こんな悩みを解決できる記事を書きました。

精神障害に関する労災申請や、会社に対する損害賠償請求を積極的に取り扱っています。

この記事で解説する「【1か月に80時間以上の時間外労働を行った事例】労災が認められた理由は?」を読めば、労基署がどのような事実を重視して労災であると認定した(認定しなった)のか、その理由がわかるようになります!

まずは、「結論として、長時間の時間外労働を行った場合、労災になるの?」という疑問に回答しているので、ぜひ読んでみてくださいね。

ただし、結論だけ覚えてもまったく役には立ちませんのでご注意ください!

具体的な事例の中で、労基署はどのようなポイントを重視して判断をしたのか、その判断するプロセス(過程)に注目して読んでくださいね。

厚生労働省が作成した「精神障害の労災認定実務要領」に掲載された事例をもとに一部改変して、解説していきます。

目次

結論とポイント!

認定結果

業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められたため、労災(業務上)であると判断されました。

ポイント

この事案のポイントは、次の1点です。

  • Aさんは、異動により新規店舗の店長となり、業務量が増大しました。

「出来事」に対する心理的負荷(ストレス)の強さを判断したポイントや医学意見の聞き取りに関するポイントは、次のとおりです。

  • 項目12で評価することとなるのは、原則として引き続く長時間労働以外には出来事が存在しない場合ですが、この項目で「強」と判断できる場合には、他に出来事が存在してもこの項目12で評価することになります。
  • 総合評価の結果、明確に「強」に該当する場合でも、業務以外の心理的負荷(ストレス)が認められる場合は、専門医意見で決定される場合があります。

事案の概要

業務による心理的負荷(ストレス)について

まずは、登場人物について整理します。

  • 労働者(労災の請求をした人) Aさん
  • Aさんが働いている会社 X社
Aの日常的な業務

・店長として勤務し、ラーメンの下準備、調理のほか、店舗の運営全般(アルバイトのシフト作成、売上管理、イベント企画など)を行う。
・近隣3店舗を統括するエリアマネージャーを兼務しており、他の店舗の運営の統括を行うほか、人員不足等の際にはその店舗の業務応援も行う。

1か月に80時間以上の時間外労働を行った

年月出来事
平成25年4月平成25年4月10日、AはX社が新規オープンした 「キャプテンラーメン国道5号店」の店長として異動することになりました。

また、同時にエリアマネー ジャーとして近隣3店舗を担当することになりました。
平成25年5月平成26年5月上旬頃、 担当店舗の社員が退職することになり、その店舗では一時的な人員不足の状態に陥りました。

その店舗内での調整だけでは対応できない日もあり、週に1回程度は、A自身が応援に行くようになりました。

平成25年5月中旬以降、店舗の売上が開店直後よりも大きく落ち込んできたことから、アルバイトの人件費を少しでも削減しようとして、A自身の勤務時間を長くするようにしました。
平成25年6~7月平成25年6月~7月も、Aは他の店舗への応援やアルバイトの人件費の削減を続けたため、長時間の勤務が続いていました。

本社からは人員の補充もされないまま、売上はしっかりとあげるよう店長会議で指示がされていました。

転勤・配置転換があった

年月心身の症状
平成25年4月平成26年4月10日、 AはX社が新規オープンした 「キャプテンラーメン国道5号店」の店長として異動することになりました。

新規店舗ではあるが、Aは 店長業務自体は以前からやっており、経験がありました。

また、Aは、エリアマネージャーとして近隣3店舗を担当することなったものの、慣れてくるとそれほど業務自体の負荷はなかったです。

心身の症状について

年月心身の症状
平成25年7月平成26年7月中旬頃から、Aは、ご飯を食べられない日がありました。

平成25年7月下旬頃から、Aは寝付きが悪くなり、 朝起きてから吐くことが多くなりました。 また、仕事に行こうとすると、手の震えなどの症状が出ることがありました。
平成25年8月平成25年8月11日、Aは勤務中にアルバイトから 「顔色がおかしい」と言われ、Aとしても体調の変調が気になっていたので、精神科を受診することにしました。

主治医などの意見

労基署からの質問事項主治医の意見
貴院への初診日についてご回答ください。初診日: 平成25年8月12日
貴院に受診したきっかけ(来院経路等)及び初診時の主訴について、ご回答ください。主訴として、不眠、憂鬱感、倦怠感等の訴えがありました。
初診時における症状についてご回答ください。初診時の症状として、不眠、憂鬱感、倦怠感、疲労感を認めました。 その他、仕事に行こうとすると嘔気(はきけ)、手の震え、気力の低下等の症状があるとのことでした。
疾患名とそのように判断された根拠について、ご回答ください。(できる限り、ICD-10の診療ガイドラインに基づきお書きください)疾患名は適応障害。

診断根拠は、 ICD-10の診断ガイドラインによります。
発病時期とそのように診断された根拠について、ご回答ください。(できる限り、発病時期は絞り込んでお書きください)平成25年7月下旬。

この頃から上記の症状が出現しているとのことでした。
発病原因とそのように診断された根拠について、ご回答ください。月100時間を超える残業が続いているとのことであり、この残業による強いストレスが原因で上記の症状が出現していると判断しました。
治療経過、投薬状況などの治療内容、現在の症状について、ご回答ください。平成25年8月13日より会社を休むよう指示し、休養を取らせました。

薬物療法、精神療法により、徐々に嘔気(はきけ)、手の震え、憂鬱感(ゆううつかん)、倦怠感(けんたいかん)等が軽快に向かいました。

現在も通院を継続しているが、間もなく職場への復帰が可能と考えられます。
精神障害の既往歴について、ご存知であればご回答ください。精神障害の既往歴なし。
他の医療機関・診療科の受診の有無、有の場合はその内容について、ご存知であればご回答ください。他の医療機関の受診なし。
当署職員がこの方からの聴取を行うに当たっての制限又は留意事項があれば、ご回答ください。聴取に当たっての制限は特になし。

就業事項や労働時間の把握など

調査事項調査結果
所定労働時間9:00~18:00(所定労働時間 8時間)
出退勤の管理方法全社統一の出退勤システムにより、出社時間、退社時間及び休憩時間が管理されています。
労働時間の推計方法会社から提出された出退社システムによる出社時間等の記録を基に算定しました。

なお、休憩時間の算定に当たっては、出退社システムの記録は実態と異なるとするAの申立や、関係者からの聴取に基づき、システム上の記録から1日当たり30分を減らしました。
スクロールできます
発病前1か月発病前2か月発病前3か月発病前4か月発病前5か月発病前6か月
労働時間の状況
起点:7月30日
112時間117時間102時間75時間74時間70時間

労基署の判断

具体的出来事

1か月に80時間以上の時間外労働を行った(項目12)

Aは、平成25年4月に新規オープンした 「キャプテンラーメン国道5号店」の店長として異動し、この時、併せて近隣3店舗のエリアマネージャーも兼任することになりました。

異動以降のAの業務は、所属店舗での勤務に加え、他店舗所属の社員の欠員を補うために応援に出向くなど、労働時間は長時間に及ぶようになりました。

また、平成25年5月中旬以降は、開店直後と比べて売上も減少していたことから、アルバイト等の人件費を削減するため、自らが長時間労働を行うことで対応 するなど、長時間労働の状況が続いていました。

なお、発病日が平成25年7月下旬のため、7月21日から31日までを発病日として11通り計算した結果、平成25年7月30日を起点とする6か月間において上述の仕事量の変化が認められました。

このような状況から、発病直前の3か月間に102時間、 117時間、112時間の時間外労働を行っていたことが認められ、かつ、 業務内容も通常その程度の労働時間を要するものと認められます。

総合評価は、「強」 と判断しました。

転勤・配置転換等があった(項目17)

平成25年4月10日、新規オープンした「キャプテンラーメン国道5号店」の店長として異動したが、従来から店舗の店長業務には従事しており、異動後の業務自体は容易に対応できるものでした。

また、同店舗の店長への異動と同時に、複数の店舗を担当するエリアマネージャーを兼任することとなり、異動後しばらくの間は一定の労力を費やすこととなったが、エリアマネージャーの職務自体の負荷は顕著なものではありませんでした

以上のことから、 総合評価は 「中」と判断しました。

恒常的長時間労働

「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」(項目12)で評価しているため、改めて評価しません。

業務以外の出来事

年月出来事
平成25年5月5月中旬頃にAの妻が長く勤めていたスーパーのパート勤務を辞めることになりました。

個体側要因

確認できませんでした。

労基署の判断を徹底的に解説!

心理的負荷(ストレス)の強さに対する判断

1か月に80時間以上の時間外労働を行った(項目12)

長時間の時間外労働を行った場合の心理的負荷(ストレス)の強さは、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目12の「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」によって評価されます。

具体的に該当する項目を次のとおり抜粋します。

スクロールできます
出来事の類型具体的出来事心理的負荷の総合評価の視点
③仕事の量・質1か月に80時間以上の時間外労働を行った・業務の困難性、能力・経験と業務内容のギャップ、職場の支援・協力の有無及び内容等
・業務の密度、業務内容、責任等
・長時間労働の継続期間、労働時間数、勤務間インターバルの状況等

(注)発病前おおむね6か月において、1か月におおむね80時間以上の時間外労働がみられる場合には、他の項目(項目11の仕事量の変化を除く)で評価される場合でも、この項目でも評価する。
【「弱」になる例】
・1か月におおむね80時間未満の時間外労働を行った

(注)他の項目で労働時間の状況が評価されない場合に評価する。
【「中」である例】
・1か月におおむね80時間以上の時間外労働を行った
【「強」になる例】
・発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った
・発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った

(注)発病直前の1か月におおむね160時間を超える等の極度の長時間労働は、特別な出来事として評価
業務による心理的負荷表」6ページ

「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」場合の「平均的な心理的負荷の強度」は「Ⅱ」であるとされています。

そのため、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」場合、一般的な事例では、心理的負荷(ストレス)の強さは「中」となります。

この表の「中」の部分が薄いグリーンで塗られているのは、一般的な心理的負荷(ストレス)の強さは「中」になるという意味です。

この事例のあてはめ

この事例では、Aは「発病直前の3か月間に102時間、 117時間、112時間の時間外労働」を行っていたました。

このようなAの長時間労働は、心理的負荷が「強」となる具体例の「発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った」に該当します。

また、労基署では「業務内容も通常その程度の労働時間を要する」と認定されています。

これは、休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合など、労働密度が特に低い場合については、労災かどうかを判断するための「時間外労働」の時間から除くものされています。

そのため、「時間外労働」の時間を計算するには、「業務内容が通常その程度の労働時間を要するもの」であることを確認する必要があるのです。

このように、Aには、心理的負荷(ストレス)の強さが「強」とされる例に該当する具体的出来事があったことから、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」であると判断されました。

転勤・配置転換等があった(項目17)

転勤・配置転換等があった場合の心理的負荷(ストレス)の強さは、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目17「転勤・配置転換等があった」によって評価されます。

具体的に該当する項目を次のとおり抜粋します。

スクロールできます
出来事の類型具体的出来事心理的負荷の総合評価の視点
④役割・地位の変化等転勤・配置転換等があった・職種、職務の変化の程度、転勤・配置転換等の理由・経緯等
・転勤の場合、単身赴任の有無、海外の治安の状況等
・業務の困難性、能力・経験と業務内容のギャップ等
・その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係、職場の支援・協力の有無及び内容等

(注)出向を含む。
【「弱」になる例】
・以前に経験した場所・業務である等、転勤・配置転換等の後の業務が容易に対応できるものであり、変化後の業務の負荷が軽微であった
【「中」である例】
・過去に経験した場所・業務ではないものの、経験、年齢、職種等に応じた通常の転勤・配置転換等であり、その後の業務に対応した

(注)ここでの「転勤」は、勤務場所の変更であって転居を伴うものを指す。「配置転換」は、所属部署(担当係等)、勤務場所の変更を指し、転居を伴うものを除く。
【「強」になる例】
・転勤先は初めて赴任する外国であって現地の職員との会話が不能、治安状況が不安といったような事情から、転勤後の業務遂行に著しい困難を伴った
・配置転換後の業務が、過去に経験した業務と全く異なる質のものであり、これに対応するのに多大な労力を費やした
・配置転換後の地位が、過去の経験からみて異例なほど重い責任が課されるものであり、これに対応するのに多大な労力を費やした
・配置転換の内容が左遷(明らかな降格で配置転換としては異例、不合理なもの)であって職場内で孤立した状況になり、配置転換後の業務遂行に著しい困難を伴った
業務による心理的負荷表」7ページ

「転勤・配置転換等があった」場合の「平均的な心理的負荷の強度」は「Ⅱ」であるとされています。

そのため、「転勤・配置転換等があった」場合、一般的な事例では、心理的負荷(ストレス)の強さは「中」となります。

この表の「中」の部分が薄いグリーンで塗られているのは、一般的な心理的負荷(ストレス)の強さは「中」になるという意味です。

この事例のあてはめ

この事例では、Aは、新規オープンした「キャプテンラーメン国道5号店」の店長として異動しました。

Aは、従来から店舗の店長としての業務を行っていたため、Aが「キャプテンラーメン国道5号店」に異動した後の店長業務については、簡単に対応できるものでした。

そのため、Aの異動により担当することになった店長業務は、以前に経験した業務に当たります。

また、Aは、店長への異動と同時に、複数の店舗を担当するエリアマネー ジャーを兼任することになりました。

Aは、エリアマネージャーについての経験はなかったため、異動後しばらくの間は一定の労力を費やすことになりましたが、エリアマネージャーの職務自体の負担は大きくありませんでした。

そのため、Aのエリアマネージャーへの異動は、心理的負荷が「中」となる具体例の過去に経験した場所・業務ではないものの、経験、年齢、職種等に応じた通常の転勤・配置転換等であり、その後の業務に対応したに該当します。

このように、Aには、心理的負荷(ストレス)の強さが「中」とされる例に該当する具体的出来事があったことから、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「中」であると判断されました。

複数の出来事がある場合の総合評価

今回の事例では、Aに「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」で「強」、「転勤・配置転換等があった」で「中」となる複数の「出来事」が認められました。

複数の『出来事』がある場合、心理的負荷(ストレス)の大きさはどうやって決めるの?」については以下の記事で詳しく説明していますので、「どうやって心理的負荷(ストレス)を評価のか知りたい!」という方は、ぜひチェックしてみてください!

今回は、「強」である出来事が一つ以上あるため、全体の総合的な評価も「強」になります。

「精神障害の労災認定」3ページ

そのため、労基署の判断においても、これら複数の出来事について、関連しているのか、関連していないのかを判断することなく、心理的負荷(ストレス)の総合評価を「強」と判断しています。

業務以外の出来事

今回の事例では、平成26年5月に、Aの妻が長年勤めていたパート勤務を退職した事実が認められています。

この事実は、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の「配偶者が仕事を始めた又は辞めた」 に該当し、 その心理的負荷(ストレス)の強さは「Ⅰ」とされています。

業務以外の心理的負荷(ストレス)の強さが「Ⅱ」または「Ⅰ」の出来事しか認められない場合は、労災かどうかの判断では、特に考慮する必要はないとされています。

そのため、労災(業務上)であるとの認定がされました。

「精神障害の労災認定」10ページ

その他の判断

個体側要因(本人の要因)は確認できなかったことから、そのまま労災(業務上)であると判断されました。

労基署の判断を理解して手続を進めよう!

ご紹介した「【1か月に80時間以上の時間外労働を行った事例】労災が認められた理由は?」を読めば、労基署がどのような事実を重視して労災であると認定した(認定しなった)のか、その理由がわかるようになります!!

最後に、ご紹介した内容をおさらいしておきましょう。

今回の事例で労災が認められた理由をまとめると、次のようになります!

  • 長時間労働は、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目12「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当するかどうかを判断します。
  • 異動は、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目17「転勤・配置転換等があった」に該当するかどうかを判断します。
  • 今回の事例では、「発病直前の3か月間に102時間、 117時間、112時間の時間外労働」があり、「発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った」ことが認められました。
  • 「業務以外の出来事」が「Ⅰ」である場合、労災かどうかの判断では、特に考慮する必要はありません。

ご紹介した内容を理解すれば、あなたのケースにおいて、精神障害で労災が認められるために何が必要なのかわかるようになります!

「自分の精神障害が労災になるか知りたい!」、「会社に対して損害賠償請求したい!」という方は、別の記事の解説もチェックしてみてくださいね!

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この記事を書いた人

小瀬 弘典のアバター 小瀬 弘典 弁護士 ・社労士

弁護士・社会保険労務士の小瀬 弘典(オセ ヒロノリ)です。

2011年に弁護士登録してから、年間300件以上の法律相談と紛争解決業務に携わってきました。

他の弁護士と違うのは、社会保険労務士の資格を持ち、「うつ病」などの精神障害の労災・損害賠償請求について独自のスキルと経験を身につけている点です。

これまでに多くの結果を出してきた手法やノウハウを、惜しみなく提供していきます。

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