部下から治療が必要な暴行を受けた事例:労災が認められた理由とは?
- 上司からではなく部下から暴行されて精神障害になった場合でも、労災になるの?
- 労災かどうかについて、労基署はどうやって調査しているの?
- 実際の事例で、労基署がどのように判断したのかを知りたい!
こんな悩みを解決できる記事を書きました。
精神障害に関する労災申請や、会社に対する損害賠償請求を積極的に取り扱っています。
この記事で解説する「【部下から治療が必要な暴行を受けた事例】労災が認められた理由とは?」を読めば、労基署がどのような事実を重視して労災であると認定したのか、その理由がわかるようになります!
まずは、「結論として、上司からではなく部下から暴行されて精神障害になった場合でも、労災になるの?」という疑問に回答しているので、ぜひ読んでみてくださいね。
ただし、結論だけ覚えてもまったく役には立ちませんのでご注意ください!
具体的な事例の中で、労基署はどのようなポイントを重視して判断をしたのか、その判断するプロセス(過程)に注目して読んでくださいね。
厚生労働省が作成した「精神障害の労災認定実務要領」に掲載された事例をもとに一部改変して、解説していきます。
結論とポイント!
認定結果
業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められたため、労災(業務上)であると判断されました。
ポイント
この事案のポイントは、次の2点です。
- Aさんは、部下から暴行を受けました。
- 暴行の程度は、治療が必要なものでした。
「出来事」に対する心理的負荷(ストレス)の強さを判断したポイントや医学意見の聞き取りに関するポイントは、次のとおりです。
- 部下から受けた暴行は、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目23の「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」によって評価します。
- 暴行によるケガの程度について検討し、整形外科医などの医学意見によって治療が必要であるかどうかを確認します。
事案の概要
業務による心理的負荷(ストレス)について
まずは、登場人物について整理します。
- 労働者(労災の請求をした人) Aさん
- Aさんが働いている会社 X社
- Aさんの部下 Bさん
・不動産の売買に関する営業、契約書作成など
同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた
年月 | 出来事 |
令和元年10月 | 令和元年10月30日の朝から部下のBを連れて得意先へ営業に行きました。 営業先でBがお客様を怒らせてしまい契約が破棄になりそうになりましたが、私がなんとか話をまとめ、契約破棄は回避されました。 そのことに対して帰りにAはBに「あそこで、あんなことを言ったらダメでしょ」、「今度は言う前に一度頭で考え るように」、「慎重な発言をしなければ契約は取 れないよ」と注意しました。 Aから注意を受けたBは、明らかにムッとした顔をして「お前に何が分かるんだ」と叫びました。Aは 「そんなことではこの先やっていけないぞ」 と言った途端、 Bは「ふざけんな」と逆上し、Aに回し蹴りをしてきました。 突然のことだったのでAは避けきれずBの右足がAのアゴに当たり、アゴが外れました。 Aはその場を立ち去り、 左頬が腫れ口の中も切れて血が出ていたので、会社に電話をしてそのまま口腔外科に行きました。 診察の結果、アゴが外れていました。 Bは小さいときからムエタイを習っており、高校生の時に県大会で優勝したことを以前に聞いたことがありす。Bから受けた暴行について警察に被害届は提出していません。 |
心身の症状について
年月 | 心身の症状 |
令和元年10月30日 | Aは、営業先の帰りに、部下のBから回し蹴りを顔面に受けて、アゴが脱臼(だっきゅう)しました。 左頬が腫れ、尋常でない痛みがあったので、営業先からそのまま帰り、口腔外科(こうくうげか)に行きました。 口の中も切れており、顎が外れていました。普通に話をすることができず、唾も飲み込めない状態でした。 |
令和元年11月 | 令和元年11月1日に会社に現状を報告するため、話をするのも難しい状況でしたが、午前中だけ出勤しました。その時、部下のBの顔は怖くて見れませんでした。 会社を出て帰宅途中の電車の中で、自然に両手が震え止まりませんでした。 家に帰ってからも落ち着かず、何故か涙が出てきて、夜も少しの物音で目が覚めるようになりました。この日以降外出することが怖くなり、不安と恐怖感で出勤できなくなりました。 |
主治医などの意見
労基署からの質問事項 | 主治医の意見 |
貴院への初診日についてご回答ください。 | 令和元年11月8日初診 |
貴院に受診したきっかけ(来院経路等)及び初診時の主訴について、ご回答ください。 | 外出の際に不安と恐怖を感じるとのことで当院を来院しました。 |
初診時における症状についてご回答ください。 | 他覚所見としては、恐怖心、不安感、不眠症状を認めます。 |
疾患名とそのように判断された根拠について、ご回答ください。(できる限り、ICD-10の診療ガイドラインに基づきお書きください) | 上記の症状から外傷性ストレス障害と診断しました。 |
発病時期とそのように診断された根拠について、ご回答ください。(できる限り、発病時期は絞り込んでお書きください) | 発病時期は令和元年10月30日と考えます。 令和元年10月30日に部下からの回し蹴りで顎関節を脱臼し、精神不安が生じているとの本人申し出があったためです。 |
発病原因とそのように診断された根拠について、ご回答ください。 | 部下からの回し蹴りで顎関節を脱臼したことによる心的ストレスが要因と考えられます。 |
治療経過、投薬状況などの治療内容、現在の症状について、ご回答ください。 | 精神療法、抗うつ剤にて経過観察をしています。 |
精神障害の既往歴について、ご存知であればご回答ください。 | 精神障害の既往歴はなし。 |
当署職員がこの方からの聴取を行うに当たっての制限又は留意事項があれば、ご回答ください。 | 聴取に当たっての制限は特になし。 |
事項 | 整形外科医の意見 |
初診日 | 令和元年10月30日 |
受診の端緒 | 足で顔面を蹴られ口が空かなくなったとのことで受診に至ります。 |
他覚所見 | 口内出血及びX線にて顎関節脱臼を認めます。 |
傷病名 | 顎関節脱臼 |
治療内容: | 患部を固定し保存療法とし、2週間程度の開口制限を指示しました。 |
症状固定時期 | 令和元年11月15日の再診にて症状固定と判断しました。 |
その他 | 顎関節症で通院歴があります。 |
事項 | 地方労災医員の意見 |
既往症との関係 | 既往症として顎関節症を認めますが、顔面を足で蹴られ口内出血もしていたとのことから、下顎骨に過大な外力が加わったことによる脱臼と思われます。 そのため、顎関節症と顎関節脱臼との関連性は乏しいと思われます。 |
就業事項や労働時間の把握など
調査事項 | 調査結果 |
所定労働時間 | 8:30~17:30(所定労働時間 8時間) |
出退勤の管理方法 | タイムカードによる出退勤管理。 |
労働時間の推計方法 | 時間外労働の申立はありませんでした。 |
労基署の判断
同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた(項目23)
Aは、令和元年10月30日に部下から回し蹴りをされたことにより、顎関節脱臼を負った事実が認められます。
Aからの業務上の注意に対し逆上したBが、 回し蹴りをしたことによ り、部下の右足がAの下顎に当たったことが確認されます。
この行為によって、Aは、全治2週間の顎関節脱臼を負ったことが確認されます。
このことから、具体的出来事の「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に該当し、部下から治療を要する程度の暴行等を受けたものと認められます。
総合評価は、「強」 と判断しました。
恒常的長時間労働
確認できませんでした。
業務以外の出来事
確認できませんでした。
個体側要因
確認できませんでした。
労基署の判断を徹底的に解説!
心理的負荷(ストレス)の強さに対する判断
同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた(項目23)
同僚などから暴行やいじめ等を受けた場合の心理的負荷(ストレス)の強さは、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目23の「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」によって評価されます。
具体的に該当する項目を次のとおり抜粋します。
出来事の類型 | 具体的出来事 | 心理的負荷の総合評価の視点 | 弱 | 中 | 強 |
⑥対人関係 | 同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた | ・暴行又はいじめ・嫌がらせに至る経緯や状況等 ・暴行又はいじめ・嫌がらせの内容、程度、同僚等との職務上 の関係等 ・反復・継続など執拗性の状況 ・会社の対応の有無及び内容、改善の状況等 | 【「弱」になる例】 ・同僚等から、「中」に至らない程度の言動を受けた | 【「中」になる例】 ・同僚等から、治療を要さない程度の暴行を受け、行為が反復・継続していない ・同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を受け、行為が反復・継続していない | ・同僚等から、治療を要する程度の暴行等を受けた ・同僚等から、暴行等を反復・継続するなどして執拗に受けた ・同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた ・心理的負荷としては「中」程度の暴行又はいじめ・嫌がらせを受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が暴行若しくはいじめ・嫌がらせがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった ※ 性的指向・性自認に関するいじめ等を含む。 | 【「強」である例】
「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」場合の「平均的な心理的負荷の強度」は「Ⅲ」であるとされています。
そのため、「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」場合、一般的な事例では、心理的負荷(ストレス)の強さは「強」となります。
この表の「強」の部分が薄いグリーンで塗られているのは、一般的な心理的負荷(ストレス)の強さは「強」になるという意味です。
この事例のあてはめ
この事例では、Aは、令和元年10月30日に部下に業務上の注意をしたところ、部下が逆上し、回し蹴りをして右足がAの下顎に当たり、Aは顎関節脱臼を負ったことが認められました。
部下Bは、日頃からのAによる説教に不満を持っていたこともあり逆上したこともあり、結果、Aに顎関節脱臼を負わせていることから、この行為は事故ではなく暴行であると言えます。
そのため、「同僚等から~暴行等」を受けたに該当します。
そして、同僚等から受けた暴行の程度が、「治療を要する程度」であるかどうかにより、心理的負荷(ストレス)の強さが「強」であるか「中」であるかに分かれます。
Aには、全治2週間の療養を要したことが確認されています。
なお、Aは既往症として顎関節症が認められていますが、地方労災医員の意見により、あくまでも暴行による外力を原因とする顎関節脱臼であって、既往症との関連はないとされています。
そのため、Aは「治療を要する程度の暴行」を受けたものと認められます。
このように、Aには、心理的負荷(ストレス)の強さが「強」とされる例に該当する具体的出来事があったことから、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」であると判断されました。
その他の判断
恒常的長時間労働、業務以外の出来事の、個体側要因(本人の要因)のいずれも確認できなかったことから、そのまま労災(業務上)であると判断されました。
労基署の判断を理解して手続を進めよう!
ご紹介した「【部下から治療が必要な暴行を受けた事例】労災が認められた理由とは?」を読めば、労基署がどのような事実を重視して労災であると認定したのか、その理由がわかるようになります!!
最後に、ご紹介した内容をおさらいしておきましょう。
今回の事例で労災が認められた理由をまとめると、次のようになります!
- 部下から受けた暴行は、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目23の「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」によって判断します。
- 暴行の程度が、「治療を要する程度」のものであるかどうかにより、心理的負荷(ストレス)の強さについて「強」と「中」とが区別されます。
- 暴行によるケガの程度について検討し、整形外科医などの医学意見によって治療が必要であるかどうかを確認します。
ご紹介した内容を理解すれば、あなたのケースにおいて、精神障害で労災が認められるために何が必要なのかわかるようになります!
「自分の精神障害が労災になるか知りたい!」、「会社に対して損害賠償請求したい!」という方は、別の記事の解説もチェックしてみてくださいね!
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