同僚から、いじめ・嫌がらせを受けた事例:労災が認められた理由とは?
- 同僚から、暴行やいじめ・嫌がらせを受けた場合、労災になるの?
- 労災かどうかについて、労基署はどうやって調査しているの?
- 実際の事例で、労基署がどのように判断したのかを知りたい!
こんな悩みを解決できる記事を書きました。
精神障害に関する労災申請や、会社に対する損害賠償請求を積極的に取り扱っています。
この記事で解説する「【同僚から、いじめ・嫌がらせを受けた事例】労災が認められた理由とは?」を読めば、労基署がどのような事実を重視して労災であると認定した(認定しなった)のか、その理由がわかるようになります!
まずは、「結論として、同僚から、暴行やいじめ・嫌がらせを受けた場合、労災になるの?」という疑問に回答しているので、ぜひ読んでみてくださいね。
ただし、結論だけ覚えてもまったく役には立ちませんのでご注意ください!
具体的な事例の中で、労基署はどのようなポイントを重視して判断をしたのか、その判断するプロセス(過程)に注目して読んでくださいね。
厚生労働省が作成した「精神障害の労災認定実務要領」に掲載された事例をもとに一部改変して、解説していきます。
結論とポイント!
認定結果
業務による強い心理的負荷(ストレス)が認められたため、労災(業務上)であると判断されました。
ポイント
この事案のポイントは、次の1点です。
- Aさんは、同僚からいじめ・嫌がらせを受けました。
「出来事」に対する心理的負荷(ストレス)の強さを判断したポイントや、医学意見の聞き取りに関するポイントは、次のとおりです。
- 同僚から受けた単独のいじめ・嫌がらせは、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目23「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」で評価します。
- 同僚から受けたいじめ・嫌がらせの内容(人格・人間性否定など)や、反復・継続など執拗(しつよう)に行われたかどうかを評価します。
- 同僚との間の業務をめぐる方針等の対立であれば、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目25「同僚とのトラブルがあった」で評価します。
事案の概要
業務による心理的負荷(ストレス)について
まずは、登場人物について整理します。
- 労働者(労災の請求をした人) Aさん
- Aさんに、いじめ・嫌がらせをした人(同僚) Bさん
- Aさんの同僚 Cさん・Dさん
・店舗の清掃、食器洗浄、食材のカット、盛り付けなどの調理補助業務
年月 | 出来事 |
R1年4月~ | Aは、令和元年4月1日から新橋キッチンハウスに新入社員として入社しました。1週間の研修期間を経て、本店のホールで調理補助担当となりました。 ホールには、同期のB、 C、先輩のDがおり、Aを含め4人で調理担当業務をしていました。 |
R1年5月~ | 調理は先輩のDが行い、Aは野菜の刻み作業や盛り付けなどを担当していましたが、令和元年6 月に入ってから、仕事中にBによる嫌がらせを受けるようになりました。 Aの仕事は早くなかったものの、野菜のカットにばらつきが出ないように、時間が掛かっても丁寧に作業をしていました。 Aは、一つのことに集中すると、同時の他のことをするが苦手なタイプで、店が混む昼時は先輩Dの調理に野菜のカット作業が追いつかない時もありました。 そのことが原因で、AはBから「いつまで切ってんだ」 、「本当に調理師学校出てんのかよ」、「使えねー」 とホール内で言われるようになりました。 BはAの同期ですがAより年上で、調理経験も豊富です。 |
R1年6月~ | Aは、6月になってもスムーズに作業をすることができず、相変わらずBから文句を言わ れていました。 このような日々を過ごしていたところ、 6月15日、Aは大きなミスをしました。 Aは、Bが調理補助をしていたハンバーグの盛り付けを間違えてしまい、本当であれば和風ハンバーグを出すところ、間違えて目玉焼きを乗せたハンバーグを出してしまいました。 それによって、Bにお客様からクレームが入り、ハンバーグを作り直すことになってしまいました。 その日の休憩時間に、激怒したBは、Aをトイレに呼び出しAの前髪をわしづかみして、「おいなめてんのか殺すぞコラ」と言って、Aは「大変申し訳ございませんでした」と頭を下げて謝りました。 それでもBの怒りは収まらず、トイレのドアを右手で叩きながら 「お前は、みんな迷惑してる会社のゴミだ」、「今すぐ辞めろ、辞めなければ次は殺す」などと大声で言ってきました。 |
R1年7月~ | 7月に入っても何かにつけて、 BはAに対しカットした野菜を何度もだめ出ししたり、ホール内で他の人が聞こえるようにAのことを「のろまくん」と呼ぶようになりました。 また、BはAに対し、「のろまくんまだ辞めないの」、「臭い、風呂入ってんのか」、「のろまくんの料理は家畜しか喰わねえな」、「○○調理師学校の一番の汚点者」 などと暴言を言い続けました。 |
心身の症状について
年月 | 心身の症状 |
R1年7月 | 令和元年7月初旬頃から、人とコミュニケー ションを取ることが辛くなりました。 次第に食欲も落ちてきて、朝方まで眠れない日が何度かあったた。 仕事でも身が入らずミスが多くなりました。 令和元年7月下旬頃には、不安感と恐怖感で家から外に出ることが辛くなり、たびたび仕事を休むようになりました。 私の異変を感じた両親に連れられ、令和元年7月31日に精神科を受診したところ、ストレス反応と診断されました。 |
R1年8月 | 令和元年8月1日から会社を休職し、そのまま退職しました。 |
主治医などの意見
労基署からの質問事項 | 主治医の意見 |
貴院への初診日についてご回答ください。 | 令和元年7月31日初診 |
貴院に受診したきっかけ(来院経路等)及び初診時の主訴について、ご回答ください。 | 人とコミュニケーション不良、食欲不振、 不眠を主訴に当院受診。 |
初診時における症状についてご回答ください。 | 他覚所見としては、恐怖心、不安感が顕著。 |
疾患名とそのように判断された根拠について、ご回答ください。(できる限り、ICD-10の診療ガイドラインに基づきお書きください) | 上記の症状から適応障害と診断。 |
発病時期とそのように診断された根拠について、ご回答ください。(できる限り、発病時期は絞り込んでお書きください) | 発病時期は、本人の主訴を前提とすれば、上記の症状が強く見られるようになった令和元年7下旬と判断されます。 |
発病原因とそのように診断された根拠について、ご回答ください。 | 本人は、会社内の同僚から嫌がらせや叱責(しっせき)されていることを述べていることから、そのストレス要因で発病したと考えられます。 |
治療経過、投薬状況などの治療内容、現在の症状について、ご回答ください。 | 精神療法、薬物療法、セルシン(不眠時)、サインバルタ (抗うつ剤)を実施。 |
精神障害の既往歴について、ご存知であればご回答ください。 | 精神障害の既往歴なし。 |
当署職員がこの方からの聴取を行うに当たっての制限又は留意事項があれば、ご回答ください。 | その他参考事項なし。 |
事項 | 専門医(地方労災医員)の意見 |
精神障害の発病について | 主治医意見では、令和元年7月下旬頃に適応障害を発病したと診断されています。 しかし、診療記録や申述を踏まえ、出現した病状をICD-10の診療ガイドラインに照らして分類すると、Aは令和元年7月上旬ころに、急性ストレス反応(F43.0)を発病したものと判断します。 |
就業事項や労働時間の把握など
調査事項 | 調査結果 |
所定労働時間 | 10:30~19:30(所定労働時間 8時間) |
出退勤の管理方法 | タイムカードによる出退勤管理 |
労働時間の状況 | 時間外労働の申立はありませんでした。 |
労基署の判断
具体的出来事
同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた(項目23)
Aは、平成31年4月1日から新入社員として調理補助業務に従事していたところ、 同僚一人から繰り返しいじめ・嫌がらせを受けていた事実が認められます。
いじめ・嫌がらせは、令和元年5月頃から始まり、同年6月中旬頃には、脅迫とも捉えられる言動や、人格や人間性を否定するような発言も認められました。
また、それ以降も、人格や人間性を否定するような発言の継続が認められました。
以上により、当該出来事は、同僚からひどいいじめ・嫌がらせを受けていたことが認められるため、具体的出来事の「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」 に該当します。
そして、人格や人間性を否定するような言動を、繰り返し執拗(しつよう)に受けていたものと認められます。
心理的負荷(ストレス)の強さの総合評価は、 「強」 と判断されました。
恒常的長時間労働(1か月おおむね100時間の時間外労働)
確認できませんでした。
業務以外の出来事
確認できませんでした。
個体側要因
確認できませんでした。
労基署の判断を徹底的に解説!
心理的負荷(ストレス)の強さに対する判断
基準のおさらい
同僚からいじめや嫌がらせを受けた場合の心理的負荷(ストレス)の強さは、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目23「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」によって評価されます。
具体的に該当する項目を次のとおり抜粋します。
出来事の類型 | 具体的出来事 | 心理的負荷の総合評価の視点 | 弱 | 中 | 強 |
⑥対人関係 | 同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた | ・暴行又はいじめ・嫌がらせに至る経緯や状況等 ・暴行又はいじめ・嫌がらせの内容、程度、同僚等との職務上の関係等 ・反復・継続など執拗性の状況 ・会社の対応の有無及び内容、改善の状況等 | 【「弱」になる例】 ・同僚等から、「中」に至らない程度の言動を受けた | ・同僚等から、治療を要さない程度の暴行を受け、行為が反復・継続していない ・同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を受け、行為が反復・継続していない | 【「中」になる例】【「強」である例】 ・同僚等から、治療を要する程度の暴行等を受けた ・同僚等から、暴行等を反復・継続するなどして執拗に受けた ・同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた ・心理的負荷としては「中」程度の暴行又はいじめ・嫌がらせを受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が暴行若しくはいじめ・嫌がらせがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった ※ 性的指向・性自認に関するいじめ等を含む。 |
「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」場合の「平均的な心理的負荷の強度」は「Ⅲ」であるとされています。
そのため、「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」場合、一般的な事例では、心理的負荷(ストレス)の強さは「強」となります。
この表の「強」の部分が薄いグリーンで塗られているのは、一般的な心理的負荷(ストレス)の強さは「強」になるという意味です。
この事例のあてはめ
この事例では、Aは、平成31年4月1日から新入社員として調理補助業務に従事していたところ、 同僚一人から繰り返しいじめ・嫌がらせを受けていました。
いじめ・嫌がらせの内容は、令和元年5月頃から始まり、「いつまで切ってんだ」、「本当に調理師学校出てんのかよ」、「つかえねー」等の発言がされました。
令和元年6月中旬頃には、「お前は、みんな迷惑してる社会のゴミだ」、「今すぐ辞めろ」、「辞めなければ次は殺す」との脅迫とも捉えられる言動がありました。
これは、心理的負荷(ストレス)の強さが「強」となる具体例の「人格や人間性を否定するような言動」に該当します。
また、これ以降もあだ名としてAを「のろまくん」と呼ぶなど、人間性を否定するような発言の継続性が認められました。
そのため、人格や人間性を否定するような言動を、「反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた」ものと認められます。
よって、Aには、心理的負荷(ストレス)の強さが「強」となる具体例の「同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた」に該当します。
このように、Aには、心理的負荷(ストレス)の強さが「強」とされる例に該当する具体的出来事があったことから、心理的負荷(ストレス)の総合評価が「強」であると判断されました。
なお、同僚BはAよりも職務上の地位が上位の者ではなく、その同僚Bから協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な状況でもないことから、Bは「上司等」ではないため「パワーハラスメント」(項目22)には該当しません。
その他の判断
1か月おおむね 100 時間の時間外労働(恒常的長時間労働)、業務以外の出来事、個体側要因(本人の要因)のいずれも確認できなかったことから、そのまま労災(業務上)であると判断されました。
労基署の判断を理解して手続を進めよう!
ご紹介した「【同僚から、いじめ・嫌がらせを受けた事例】労災が認められた理由とは?」を読めば、労基署がどのような事実を重視して労災であると認定した(認定しなった)のか、その理由がわかるようになります!!
最後に、ご紹介した内容をおさらいしておきましょう。
今回の事例で労災が認められた理由をまとめると、次のようになります!
- 同僚から、いじめ・嫌がらせを受けた場合、厚生労働省が定めた「業務による心理的負荷表」の項目23「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」に該当するかどうかを判断します。
- 「人格や人間性を否定するような言動」を受けただけでなく、そのような言動が「反復・継続するなどして執拗(しつよう)に受けた」場合、心理的負荷(ストレス)の強さは「強」と判断されます。
- 言動を行った者が「職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合」等でない場合、「上司等」に当たらないことから「パワーハラスメント」(項目22)には該当しません。
ご紹介した内容を理解すれば、あなたのケースにおいて、精神障害で労災が認められるために何が必要なのかわかるようになります!
「自分の精神障害が労災になるか知りたい!」、「会社に対して損害賠償請求したい!」という方は、別の記事の解説もチェックしてみてくださいね!
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